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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > “全裸監督”村西とおる熱狂の日々
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.559

ネトフリ“全裸監督”は序章にすぎなかった!? 借金50億円からの脱出『M 村西とおる 狂熱の日々』

幻の王国を夢見るロマンチスト

ヘアヌードビデオの撮影現場。渓流の中に身を沈め、演出に没頭する村西監督。撮影中は借金のことを忘れることができる。

 お蔵入り状態のメイキング映像の存在を知り、一本のドキュメンタリー映画に仕立てたのは、『アジアの純真』(09)や『いぬむこいり』(17)などエッジの効いたインディーズ映画を放ってきた片嶋一貴監督。アダルト業界で脚光を浴びた村西とは、直接的なつながりはない。それゆえに客観的な立場から、村西という男の面白さ、タフさを浮かび上がらせていく。

 北海道でさんざん苦労した超大作Vシネマは『北の国から 愛の旅路』というタイトルで何とか完成するも、50億円という多額の借金の前では焼け石に水だった。このシーンで、甘粕正彦の辞世の句が紹介される。

「大ばくち 身ぐるみ脱いで すってんてん」

 甘粕正彦は「満州国」建国の際に暗躍した軍人。ベルナルド・ベルトリッチ監督作『ラストエンペラー』(87)では、坂本龍一が甘粕役を演じたことでも知られている。甘粕は満州映画協会(満映)の理事長を務めた映画人でもあったが、終戦直後の1945年8月20日に服毒自殺を遂げた。幻の満州国をつくった男と幻のアダルト帝国を築いた男の生き様を、片嶋監督は映画の中でクロスさせてみせる。

 軍人とAV監督とではジャンルがまるで異なるが、どちらも途方もないスケールの夢を抱き、それを実現しようと試みた。誰にも忖度することなく形容するならば、2人は大のロマンチストだった。幻に終わった王国のことを想うとき、人は少しだけセンチメンタルになる。

 映画の終盤、インタビューに答える現在の村西のコメントが奮っている。あの丁寧な口調で、村西はこう振り返る。

「50億の借金を抱え、前科7犯の私が言うとお叱りを受けそうですが、本当にラッキーな人生だったなと思います」

 幸せな人生を送った人は、実は人生の半分しか楽しんでいない。なぜなら、幸福と不幸の両方を体験しなければ、本当の人生を味わったことにはならないからだ。絶頂とどん底の両方を満喫した村西は、人生という名のフルコースを味わい尽くした男だといえるだろう。

 70歳を過ぎた村西は、まだ再起を諦めていない。バブル期にある中国で、アダルト産業を興すという野望を抱いているそうだ。村西はアダルト版「満州国」の建国を夢見ているのかもしれない。

(文=長野辰次)

 

『M 村西とおる 狂熱の日々 完全版』
監督/片嶋一貴 プロデューサー/丸山小月
出演/村西とおる、本橋信宏、玉袋筋太郎、西原理恵子、高須克弥、松原隆一郎、宮台真司、片岡鶴太郎、卑弥呼、桜樹ルイ、乃木真梨子、野坂なつみ、沙羅樹、松坂季実子、黒木香
配給/東映ビデオ R15+ 11月30日(土)よりテアトル新宿、丸の内TOEIほか全国順次公開
(c)2019 M PROJECT

※11月30日(土)丸の内TOEI2、12月7日(土)福岡中洲大洋映画劇場、12月13日(金)アースシネマズ姫路、12月14日(土)テアトル梅田、12月15日(日)名古屋シネマスコーレにて、村西とおる舞台挨拶ツアーを予定。https://m-kyonetsu.jp

最終更新:2019/12/02 12:58
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