奇作・怪作を蒸し返す! 名脚本家たちが描いたデタラメ90~00年代テレビドラマ回顧録
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『全裸監督』超えの問題作!?――いま配信で見るべき傑作ドラマ6選
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●セックスシンボルとしてのトヨエツ
『青い鳥』(TBS/97年/Paravi、Hulu ほか)
脚本:野沢尚
出演:豊川悦司、夏川結衣
近年は『半分、青い。』の秋風先生など変人奇人役が多いが、『NIGHT HEAD』以来、90年代テレビドラマのセックスシンボルだった豊川悦司の頂点ともいえるメロドラマ。視聴率的には『愛していると言ってくれ』に及ばなかったが、長期ロケと二部構成の丁寧なストーリーで人気を呼んだ。実は豊川と貴島誠一郎プロデューサーの共同企画で、土着的日本社会(佐野史郎)と個人(豊川)の対立に巻き込まれて死んだ女(夏川結衣)に囚われ、滅んでいく男たちの物語という舞台演劇的な裏テーマが存在している。そのため、助演の佐野や演出の土井裕泰など、アングラ劇団出身者でスタッフが固められていた。野沢尚脚本の最高傑作でもある。
●90年代の社会不安を巧みに反映
『ケイゾク』(TBS/99年/プライムビデオ、Hulu、TBSオンデマンド)
脚本:西荻弓絵 ほか
出演:中谷美紀、渡部篤郎
90年代中盤のテレビドラマは地下鉄サリン事件などの社会不安を反映してか、香取慎吾の出世作となった『沙粧妙子―最後の事件―』や『あなただけ見えない』など、サイコスリラー色の強い作品が目立ったが、本作は刑事ドラマでありながら、小劇場演劇風の虚構性が強い世界観や滑り気味の小ネタギャグ、『ジョジョの奇妙な冒険』第5部や『多重人格探偵サイコ』の影響をうかがわせるマンガ的なキャラ立て、演出・堤幸彦の極端な映像志向で異彩を放ち、00年代以降の若者向けテレビドラマに強い影響を与えている。10年代の『SPEC』『SICK’S』は続編だが、こちらは海外ドラマ『HEROES』の影響を受け、超能力ものになってしまった。
●池脇千鶴の被虐っぷりに胸ざわつく
『リップスティック』(フジ/99年/FODプレミアム)
脚本:野島伸司
出演:広末涼子、三上博史
90年代末、『ときめきメモリアル』以降の男性向けギャルゲーは、恋愛やセックスよりも美少女キャラの心的外傷を癒やすことに主眼を置き、共依存的な傾向を強めていたが、少年鑑別所を舞台に女囚たちと共依存ギャルゲーを繰り広げる本作の奇想は、時代の狂気に敏感な野島伸司以外は誰も思いつかないだろうし、思いつかれても困る。絶頂期の広末涼子が主役なのに。結果として『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』とは対極の、極めて日本的な「女囚もの」となった。なお、本作の池脇千鶴に至ってはギャルゲーどころか鬼畜系エロゲーの被虐ヒロインで、野島伸司の慧眼に震えつつ『月刊池脇千鶴』(新潮社)も買ってしまった。最低だ(碇シンジ風に)。
●桃井かおり90年代ベストバウト
『ランデヴー』(TBS/98年/Paravi、TBSオンデマンド ほか)
脚本:岡田惠和
出演:田中美佐子、桃井かおり
「ひと夏だけのランデヴー」と銘打ち、怪獣マニアの夫(吹越満)から逃れ、女流ポルノ作家の桃井かおりと、オーナーの岸田今日子が住む魔女の館……もとい、ホテルへ転がり込んだ平凡な主婦(田中美佐子)が、女同士の友情や不思議な恋愛を通して青春を取り戻していく「奇妙な味」のラブコメディ。ちょいちょいシリアスで不穏な心理描写が紛れ込むのに、夏の夕凪のような独特の空気感が楽しい。岸田今日子もメイクは怖いが、吉行和子や冨士眞奈美とバラエティ番組に出演するときのようなハイテンションで演じており、終盤、ジョージ・チャキリス(!)の登場シーンでは、テレビドラマでは珍しいマジック・リアリズム的な感動を覚える。
●言わずと知れた藤木直人の黒歴史
『ギャルサー』(日テレ/06年/Hulu)
脚本:藤本有紀 ほか
出演:藤木直人、戸田恵梨香
「もしも『クロコダイル・ダンディー』が00年代の渋谷に現れたら?」という発想で作られたカルチャーギャップ系青春コメディ。アリゾナ育ちの熱血カウボーイに扮した藤木直人の無個性なのに不思議なフラのある演技が、若手時代の戸田恵梨香や新垣結衣と絡んでシュールな人情喜劇を展開していく。放映当時ですら死語になりかけていた流行語「ギャルサー」を元にしていたことから冷笑的な小品と思いきや、予想以上に大風呂敷なホラ話と化していくのが面白い。古田新太が演じるネイティブ・アメリカンは現在の制作基準では(WAHAHA本舗のイヨマンテの夜的な意味で)たぶんアウトなのだが、テレビドラマでのベストバウトだ。
●キヤノンがスポンサーを降りた問題作
『銭ゲバ』(日テレ/09年/プライムビデオ、Hulu)
脚本:岡田惠和
出演:松山ケンイチ、ミムラ(現・美村里江)
『すいか』(03年)から『Q10』(10年)まで、日テレ土9ドラマは河野英裕プロデューサーを中心に前衛的な企画を連発していたが、まさかのテレビドラマ化。もっとも、70年に発表されたジョージ秋山の原作マンガは公害問題や金権政治を描く同時代性の強い社会派ピカレスクだったので、岡田惠和脚本は厭世的な若者の復讐譚へ換骨奪胎したが、ラストシーンまで観ると案外、原作に忠実だ。実際、当時の派遣切り問題を描いた御手洗経団連会長への批評性が嫌われ、キヤノンを含めた提供スポンサーは次々と降板、コカ・コーラの一社提供になる「勲章」も得ている。主演の松山ケンイチは一世一代の名演だが、相棒の柄本時生も泣かせる。
(月刊サイゾー11月号『Netflix(禁)ガイド』より)
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