奇作・怪作を蒸し返す! 名脚本家たちが描いたデタラメ90~00年代テレビドラマ回顧録
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動画配信にのらないSMAPの歴代好演作
しゃべらない中居正広は本当に格好いい。『ATARU』(TBS/12年)でもサヴァン症候群の役が好評だったが、当の本人はどうやら俳優仕事に消極的なご様子。
『失楽園』以前の渡辺淳一が真面目に書いた医療小説『無影燈』のドラマ化で、田宮二郎主演作のリメイク企画である『白い影』(TBS/01年)は、「しゃべらない中居正広は本当に格好いい」という『オードリー』(NHK/00年)の長嶋一茂にも通じる、巷のどうかと思う評価を確立した。続く『砂の器』(04年)もヒットし、馬鹿の一つ覚えのような池井戸潤原作ばかりになる前の福澤克雄演出の代表作となったことから、満を持して劇場向け大作『私は貝になりたい』を作ったのだが、ゲスト出演した草なぎ剛との演技合戦で完膚なきまでに喰われる大惨事が起きた。草なぎ剛のゲスト出演は高倉健の遺作『あなたへ』ですら同じ大惨事が起きているから、仕方ないのだが。『味いちもんめ』(テレ朝/95年)や『ナニワ金融道』(フジ/96年)のしゃべる中居正広も、ガラッパチだが真剣な青二才という雰囲気で、得難いキャラクターなのだが。
『味いちもんめ』と『ナニワ金融道』で思い出したが、人気マンガのドラマ化は90年代も多く、そのたびに大惨事が発生していた。そして、どう見てもアニメでないと成立しないロリコン&マザコン系ラブコメのドラマ化で、「現在」の安達祐実が演じる以外に実写では正解のないロリ系美魔女ヒロインをヘドリアン女王的ガチ魔女の夏木マリが演じてしまった『八神くんの家庭の事情』(テレ朝/94年)の惨劇がよく語られるが、史上最悪の大惨事となったのが『いいひと。』(フジ/97年)である。
原作マンガは底抜けの善人が善意でトラブルを解決していくハートウォームなサラリーマンものだが、「たかがアイドル」だったはずの草なぎ剛と菅野美穂が予想外の批評的な演技を見せ、原作の異様な世界観を暴いてしまった。「そんな善人がいるとしたら、それはサイコパスな狂人である」と。かくして、平均視聴率20%超えの大ヒットでありながら、原作ファンから猛烈なバッシングを受け、原作者もドラマ版を批判して連載を打ち切った。もっとも、前年の『イグアナの娘』(テレ朝/96年)ですでに「やらかしていた」菅野美穂はさておき、全裸で暴れる前に服を丁寧に畳むサイコパス系ナイスガイに暴く意図があったかどうかは不明である。皮肉なことに初主演の草なぎはドラマアカデミー賞主演男優賞を獲得するなど、俳優として大ブレイク。97年の本作から17年の『嘘の戦争』までフジ&関テレで多くの主演作を残した。特に『僕と彼女と彼女の生きる道』(04年)と『任侠ヘルパー』(09年)はテレビドラマ史に残る傑作だが、SMAP解散の影響なのか、まったく配信されていない。というか、SMAP案件は木村拓哉主演作でも消極的で、10月開始の日曜劇場『グランメゾン東京』のついでに、北川悦吏子のユーモアが良いほうへ転がった代表作『ビューティフルライフ』(TBS/00年)などがようやくParaviで配信されたが、世紀の怪作『安堂ロイド』(TBS/13年)は入っていない!
なお、自身の特異な世界観を信じ続けた『いいひと。』原作者の次作『最終兵器彼女』は大ヒットとなり、「セカイ系」と蔑まれつつも、近年の『天気の子』にまでつながる潮流を作り上げた。これはこれで驚嘆に値するといえよう。
さて、今回は90~00年代に限定したが、思った以上に未配信作品が多かった。名作、迷作、怪作……紆余曲折はあれど、日本のテレビドラマは芳醇な歴史を紡いできたし、話題の『全裸監督』にしても、そうした歴史の上に洋ドラの手法を加えることで爆発した化学変化的な作品だ。だからこそ、ひとつでも多く配信されることを祈りつつ……まだまだ語りたいことが尽きないので、いつもの巻末コラムに続けよ(なつぞら風に)。
取材・文/更科修一郎(さらしな・しゅういちろう)
コラムニスト&〈元〉批評家。90年代から批評家として活動。2009年、『批評のジェノサイズ』(共著/弊社)刊行後、休業。15年に活動再開。
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