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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.558

生きる上で大切なことはすべてリングから学んだ 最強家族伝説『ファイティング・ファミリー』

プロレスとは職業ではなく、生き方を問うもの

父親のリッキーを演じるのは英国出身の個性派俳優ニック・フロスト。家族のために体を張る、愛すべきお父ちゃんだ。

 英国出身のスティーヴン・マーチャント監督にとって、本作は長編映画デビュー作。米国最大のプロレス団体「WWE」のショーアップされたド派手さとは対象的に、英国のインディーズ団体の生活に根差した地味な活動ぶりを丁寧に描いている点に好感を覚える。「WWE」のトライアウトでは採用されなかった兄ザックだが、普段は地元の子どもたちに声を掛け、プロレス教室を開いている。集まるのは、プロレス教室がなかったらドラックの売人になってしまうような、他に行き場所のない貧困層の子どもたちだ。両親のリッキーとジュリアもかつては不良児だったが、プロレスと出会ったお陰で更生することができた。この一家にとって、プロレス教室は大切な意味を持つものだった。

 プロレス教室に参加する生徒のひとりに、視覚障害の少年がいる。彼は他の生徒たちと同じようにリングに上がり、コーナーポストに登ってからのダイビングボディプレスを決めようとする。このシーンを見て、ハッとさせられた。プロレスとはただ単に強さを競い合うだけの競技ではない。お互いの個性を競い合ってこそのプロレスなのだと。プロレスラーとは職業ではなく、生き方を指した言葉であり、裸一貫でどこまで自分をさらけ出せるかの勝負なのだ。視覚障害の少年はコーナーポストからダイブした瞬間、プロレスラーとしての輝きを放ってみせる。

 地元ノーウィッチに里帰りしたペイジは、メジャーデビューを目指すあまりに大切なものを見失っていたことに気づく。プロレスは自分ひとりが意気がっても成立しない。自分の力と技を認めて受け止めてくれる相手がいるからこそ、初めて成り立つ肉体表現である。ひとりよがりになっていたことを改め、「WWE」に再挑戦することを決意するペイジ。兄ザックも一時は酒に溺れてしまうが、自分にしかできないスタイルを模索することになる。

 プロレスのリングは多様性に溢れた世界だ。ベビーフェイス(善玉)よりもヒール(悪役)のほうが、観客からの支持を得ることが多い。相手レスラーとのライブセッションの中で、予定調和からはみだした熱戦が生まれていく。そんなリングで闘いながら、ペイジは自分らしさを見つけていくことになる。

 金髪系ディーバのようなセクシーさはないものの、全力ファイトを信条とするペイジはリング上で輝きを発揮するようになる。そんなペイジを、ザックたち家族はテレビ観戦しながら応援する。離れていても、リングで培った家族の想いはずっと繋がったままだ。プロレス、最高! プロレスファンでなかった人も本作を見終わった後には、そう叫ばずにはいられないだろう。

(文=長野辰次)

『ファイティング・ファミリー』
監督・脚本/スティーヴン・マーチャント
出演/フローレンス・ピュー、レナ・ヘディ、ニック・フロスト、ジャック・ロウデン、ヴィンス・ヴォーン、ドウェイン・ジョンソン
配給/パルコ、ユニバーサル映画 11月29日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
(c) 2019 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC., WWE STUDIOS FINANCE CORP. AND FILM4, A DIVISION OF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
https://fighting-family.com

 

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最終更新:2019/11/22 20:00
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