中東紛争を題材にした傑作バックステージもの 予期せぬ結末『テルアビブ・オン・ファイア』
#パンドラ映画館
三谷幸喜作品に通じる面白さ
ドラマ制作の舞台裏を描いた本作を観た人は、三谷幸喜の舞台『笑いの大学』を思い浮かべるのでないだろうか。『笑いの大学』は西村まさ彦と近藤芳正の2人芝居として、1997年に初演された。大戦を間近に控えた昭和初期、コメディ劇団「笑いの大学」の座付き作家・椿(近藤)は、警視庁の検閲官・向坂(西村)から上演台本の厳しい検閲を受ける。
「このご時勢に笑いなど不謹慎だ」と向坂は台本から笑いの部分を削除しようとするが、椿は向坂の指導に従いながら台本を書き直し、その結果、さらに笑える台本になっていく。権力からの圧力が掛かることで、笑いの力がますますアップするという逆説的な物語を描いたこの舞台は、ロシアや香港など海外でも上演され、劇作家・三谷幸喜の代表作となった。
三谷が得意とするバックステージものと同じ面白さが、本作にもある。サスペンスドラマだったはずの『テルアビブ・オン・ファイア』だが、アッシの強い意向で女スパイとイスラエル軍の将軍が危険な恋に陥る大恋愛ドラマへと変貌していく。アッシは大のロマンチストだった。検問所の中でアッシとサラームがドラマ展開についてブレストしていることは、2人だけの秘密だ。『テルアビブ・オン・ファイア』の思わぬ方向転換に、パレスチナ人もイスラエル人も大喜び。これまで以上の高視聴率を記録するようになる。
冴えない雑用係から人気脚本家へと出世したサラームは、意中の女性マリアム(マイサ・アブドゥ・エルハディ)への想いを劇中の台詞として託すなど、どんどん大胆になっていく。さらにはサラームを気に入った主演女優からは、「一緒にパリに行かない?」とフランス行きを誘われることに。検問所のない欧米での自由な暮らしは、サラームにとっては長年の憧れだった。脚本家の私生活がそのままドラマに反映され、人気ドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』は誰も予測できない意外な結末を迎えることになる。
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