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『つけびの村』著者インタビュー

「人は信じたいものしか信じない」山口連続殺人放火事件に見る、限界集落とSNSの共通点

面会した保見光成は……

『つけびの村』(晶文社)

――犯人がつかまって裁判にまで至っている、世間的にはひとまず「終わった」事件を追いかけるのも、ネットメディアではなかなかやれないことだと思いました。

高橋 私も普段、ネットメディアで事件モノを書かせてもらうときは、判決があったり控訴・上告があったりしたタイミングで編集さんに話をします。それくらいしか書けるチャンスがないんですね。この事件は今年7月に最高裁で判決があったので、個人的にはやっと一区切りがついたタイミングだったかな、と。

――本書の結末も、最高裁の死刑判決について高橋さん自身が考え続けるところで終わります。保見光成 (ほみ・こうせい)死刑囚は妄想性障害と判断されていて、妄想の世界を生きている人に贖罪は可能なのか、というしこりを感じていることが率直に書かれていて、これは裁判傍聴を続けてきた高橋さんならではじゃないかと思いました。

高橋 個人的に「どうなんだろうな」と思っていることを書きました。解釈はさまざまにあって、「妄想性障害であっても完全責任能力が認定されたんだから死刑になるのが当然だ」と思う人もいれば、「この状態で死刑にするのは人権的にどうなのか」と思う人もいるので、読んだ人にも考えてもらえるといいな、と。今でもまだ自分の考えはまとまっていないですね。本にも書いた通り、私は当事者でもないし遺族でもないので、どうあるのが一番いいのかはまだわかりません。

――その「当事者でもないし遺族でもない」というところで終わるのが、この本のすごいところだと思います。あとがきで「いま、普通の“事件ノンフィクション”には、一種の定型が出来上がってしまったように感じている」と書かれていましたよね。事件に至った経緯、周辺情報、遺族、本人への取材を経て結論を出して、事件が内包する社会問題を提示する――という。

高橋 売れる本はどこが読者を惹きつけているか知りたくて、Amazonで殺人関連のノンフィクションをランキング上位から順に買って読んだんですが、そういうパターンが多いかな、と感じます。もちろん、私はそうしたノンフィクションも好きです。でも、読者として読んでいて「これはさすがに想像じゃないか?」「ちょっとついていけないかも」と複雑な思いを抱くときもあったので、定型をあまり意識しないで書いてみようと思いました。

――とはいえ最初は、そのスタンダードなスタイルにはめ込むように取材を重ねていた、とも書かれていました。

高橋 そうなんです。最後に本人から「私は本当はこういう動機で罪を犯しました」という話を聞き出して、それをクライマックスにして結論を出すという構成を考えていたんですが、取材をする中で、村の「噂」がかなり興味深いと感じたことと、面会した保見死刑囚は妄想性障害が相当進行していて事件の動機を語れない印象だったことで、その構成は頓挫しました。困ったんですが、それなら「噂」をテーマにしたノンフィクションはあまり見たことがないからそっちを中心にしよう、と切り替えました。

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