インドのタクシー事情~「Ola」と「Uber」が高めた交通の利便性
2019年10月25日、国土交通省は、タクシーの事前確定運賃サービスを認可したと発表した。事前確定運賃とは、配車アプリで乗降車地を入力し、その地図上の走行距離と推計所要時間から算出する運賃をいう。このサービスは、乗車前の運賃確定で運賃の不安をなくし、タクシーを利用しやすくするのに役立つ。
10月28日以降、準備が整った地域から、配車アプリの利用によるタクシーの事前確定運賃サービスがスタートした。実施地域は東京、横浜、大阪、名古屋、京都などの27地域、対応する配車アプリ会社はS.RIDE、JapanTaxi、スマたく、MOVで、実施予定台数は約2万台だ。
また国土交通省は、このサービスは訪日外国人にとっても、円滑かつ安心な旅行ができる手助けになるとしている。確かに、慣れない異国でのタクシー利用には、料金の不安がつきまといがちだ。
筆者が以前在住していたインドでは、配車アプリでのタクシー利用の際、車種のグレードを選べるなど、多彩なサービスがあった。事前の運賃確定はないが、大体の目安が表示され、運賃の不安なしに乗車できた。
流しのタクシーがほぼいないインド
インドのタクシー事情とはどのようなものか。インドでは、流しのタクシーがほとんどおらず、配車アプリを利用するのが一般的だ。インドの配車サービス会社は、インド発の「Ola(オラ)」とアメリカの「Uber(ウーバー)」の二強で、シェアの大半を占めている。また、OlaとUberは、どちらもソフトバンクグループから資金調達を受けている。
OlaとUberの車両は、会社所有ではなく、運転手所有が一般的だ。運転手はOlaやUberと契約して、運転手のスマホに配車先の通知が来る仕組みである。運転手所有の車両には、商用車として届出している証の黄色のナンバープレートがついており、OlaやUberのステッカーが車体に貼られている。
筆者は、最初はOlaとUberの両方を利用していた。途中からはアプリが使いやすく感じたのと、インド発企業を応援したい気持ちから、Olaのみ利用するようになった。筆者のまわりのインド人も、Olaを利用している人のほうが多かった。
Olaの登場前は、筆者は出張で訪れる首都のニューデリーで、タクシーを半日または一日貸しで旅行会社に頼んでいた。しかし、駐車場で待機しているはずの運転手がなかなか来ないなど、車両での移動時間よりも運転手の待機時間のほうが長くストレスも多かった。
2014年、ニューデリーでのOlaのサービス開始により、一カ所で仕事を終えてから、また違うOlaを呼び出す形で仕事ができるようになった。料金も一日貸しの利用よりも大幅に安く済むようになり、便利な時代が来たなと思ったものである。
インドの中間層以上の人々も、OlaやUberの登場で、気軽にタクシーを利用できるようになった。OlaやUberの登場前、インドの中間層の人々は、オートリクシャと呼ばれる3輪タクシーを利用していた。
しかし、オートリクシャにはメーターがあっても料金の交渉が必要な上、窓がなく、大気汚染や過酷な気候に耐えて乗る必要があった。OlaやUberはエアコン付きの車両で移動できて、料金はもちろん交渉の必要がなく、時には料金をふっかけてくるオートリクシャよりも安い。
北西部ラジャスタン州の州都ジャイプールでは、他のインド人も言っていたが、ニューデリーと比べてオートリクシャの料金のふっかけ度がひどかった。ジャイプールのとあるオートリクシャの運転手は、OlaやUberの登場で商売上がったりで、中東に出稼ぎに行こうかと話していた。筆者もジャイプール出張時には、オートリクシャにはイライラさせられたものだが、OlaやUberが出てきてからは、ほぼ乗らなくて済むようになった。
なお、Olaでは車だけではなく、オートリクシャやバイクタクシーの手配もできる。こちらはもちろん、料金の交渉は必要ない。
最高峰大学出身の若者が起業したOla
インド発のOlaは、インド最高峰の国立大学であるインド工科大学出身のBhavish Aggarwal(バビッシュ・アガルワル)とAnkit Bhati(アンキット・バティ)の共同で、2010年に創立された会社だ。正式な会社名はANIテクノロジーズだが、通称はアプリ名のOlaで通っている。
Olaは、インド国内で250都市以上、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスでもサービスを提供している。
2014年にはソフトバンクグループが、Olaに2億1千万ドルを出資している。2017年、2019年にも追加で出資を受け、Olaは現在、電動車両によるビジネスの拡大に取り組んでいる。
さまざまなタイプの車種を取り揃えるOla
Olaでは、3輪タクシーのオートリクシャ、バイクの後部に乗るバイクタクシー、相乗りのシェア、タクシーを利用できる。タクシーはグレードにより分かれていて、ワゴンRクラスのMicro(マイクロ)からスタートし、Mini(ミニ)、Prime Sedan(プライムセダン)、Prime Play(プライムプレイ)、 Prime SUV(プライムエスユーブイ)、LUX(ラックス)などがある。
一番安い車種のグレードであるMicroの料金は、1キロにつき6ルピー(約9円)だ。グレードが上がるにつれ、料金が高くなるシステムになっている。Prime以降のクラスには、車内に無料Wi-Fiがついていて、評価の良い運転手が来るシステムである。また、LUXではベンツやBMWの呼び出しが可能だ。
利用方法は、簡潔でわかりやすい。Olaのアプリを開き、位置情報をONにすると現在地が自動で入力され、行き先を入力し、車種を選択すると予想価格が表示されて、後は呼び出すだけだ。
配車が決まると、車種、色、車のナンバー、運転手の名前、顔写真、運転手の5段階評価の平均が記された通知が来る。そして、到着時間の目安とタクシーの現在地がリアルタイムでアプリに表示され、運転手と直接通話できるボタンもついている。
また、乗車後は画面上にSOSボタンが表示され、何か問題が発生した時はここを押すと24時間対応のOlaのオペレーターにつながる。
支払いは、現金の他、デビットカードやクレジットカードの使用も可能だ。降車後に5段階で運転手を評価するシステムになっているせいか、たいていの運転手は気持ち良い対応をしてくれる。
また、通常の市内移動のタクシー以外に、アウトステーションと呼ばれる都市間を移動するサービスもある。インドの90都市以上に対応していて、500通りのルートが設定されている。予約は、乗車時間の7日前から1時間前まで可能だ。
たとえば、首都のニューデリーから世界遺産のタージ・マハルがあるアグラまでの距離は235キロで、時間は4時間15分の設定。これがたった1799ルピー(約2698円)から利用できる。
日本と比べると料金が格段に安いのは、インド国内では自動車産業が盛んで、乗用車が安価で販売されているのと、運転手の人件費が安いからである。たとえば、スズキのワゴンRは、日本国内での販売価格は100万円以上するが、スズキのインド子会社マルチスズキのワゴンRのインドでの販売価格は約65万円からのスタートだ。
現在、インド経済は成長を続けており、中間層の台頭がめざましく、彼らの給料の目標は10万ルピー(約15万円)だ。インドでは、携帯電話の料金はほぼ使い放題で1カ月300円程度、地元の茶店での紅茶は1杯15円程度で、日本と比べて生活コストが安いと言える。給料が15万円でも日本よりも自由に使えるお金は多く、30分ほどOla に乗っても400円程度で済むので、気軽にタクシーに乗れる層が増えてきている。
タクシーの需要が増え続けていく中、インドでは経済成長による車両の増加で、大気汚染が非常に深刻だ。現在、インド政府は、大気汚染対策や使い捨てプラスチックの規制などの環境問題に、積極的に取り組んでいる。
今後、企業にはますます、環境問題を考慮した対策が求められるであろう。大気汚染の緩和に一役買う、電動車両によるビジネスの拡大を目指しているOlaには、今後も注目していきたい。
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