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日刊サイゾー トップ > その他 > ウーマン・ウェジー  > 目黒虐待死事件、被告の人物像が事件を起こしたのか
【wezzy】

『ザ・ノンフィクション』目黒虐待死事件、被告の人物像が事件を起こしたのか

 昨年3月に起こった東京都目黒区の児童虐待死事件。当時5歳の少女・船戸結愛さんが両親から虐待を受けて死亡した事件で、傷害や保護責任者遺棄致死などの罪に問われていた継父・雄大被告は、東京地裁から懲役13年の判決を受け、検察側も弁護側も控訴しなかったことで判決が確定した。

 10月27日放送の『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)は、雄大被告の学生時代の友人や職場の上司などに取材し、雄大被告の人物像に迫る内容だった。しかしその放送を見て、児童虐待についての誤解を広めかねないものではないかと筆者は危機感を覚えた。その誤解とは、性格に難がある男が親になったがために引き起こした事件、ということだ。

完璧主義で人目を気にする性格
 序盤、雄大被告の小学校時代の同級生が「明るくて友達が多かった」「学校で一番バスケが上手かった」と自信に満ちた少年時代を過ごしていたと話し、大学時代の親友は「面倒見が良く、何かといろいろやってくれた」と雄大被告のリーダーシップや責任感の強さを振り返った。

 雄大被告は大学進学後に大手ケーブル会社に就職して品川区にある海沿いのマンションに住んでいたという。裁判で「周りから嫌われないように好かれるように、頑張らなければいけないと思っていました」と発言したことなどを持ち出し、雄大被告の性格を“見栄っ張り”で“人目を気にしやすい”と分析していく。

 中盤、「結愛ちゃんのしつけ方にも絶えず人目を気にする性格が影を落としていました」とナレーションが流れ、「周りから血を繋がっていないことを、悪いと思われるんじゃないかという不安が強かった」と、雄大被告の裁判中の証言を取り上げる。

 承認欲求が強く、完璧主義で、人にどう思われるかが気になる性格。理想の家庭を築くべく、継子を厳しくしつけた。それはそうなのかもしれない。だが、雄大被告がそうした性格から幼い子へのしつけがエスカレートし、残虐な行為に出たとしても、それが事件のすべてではない。

 また、雄大被告は職を転々としていた時期に、香川県でキャバクラをやっている友人から人手不足であることを伝えられ、ボーイとして働くために香川県に引っ越し、そこでホステスとして働いていた優里被告と出会う。この経緯を説明する時に流れた、「もしこの2人が出会わなければ……そう思わざるを得ません」というナレーションにも違和感を覚えた。確かに2人が出会わなければ結愛さんが亡くなること(雄大被告に虐待されること)はなかったが、出会い以降、結愛さんを虐待し殺害に至るまでいくつもの転換点があっただろう。

 児童虐待の加害者に焦点を当て、その人物像を分析して事件を読み解こうとすることを否定はしないが、個々に加害者の責任を追及しても児童虐待件数は減らない。児相に寄せられる児童虐待相談対応件数は年々増加しており、2017年度は13万3778件にも上った。児童虐待は“特殊な”パーソナリティを持つ人間だけの“特殊な”事件ではなく、社会構造の問題がそこにあるのではないか。

 たとえば、この事件が起きた背景には、児童相談所の介入が不十分だったことも上げられている。「香川県と引っ越し先の東京都の児相間で行われた情報の引き継ぎが不十分だったこと」「東京都の児相の職員が家庭訪問をした際、結愛さんとの面会を優里被告に拒否され、緊急性がないと判断して面会を強行しなかったこと」などだ。

 FNN PRIMEでは、児相の元職員が取材に応じ、1人の職員が100もの案件を抱えることもあり、人手不足のために忙殺されてしまうと話していた。職員の専門性にばらつきがあり、1つ1つの案件が手薄にならざるを得ない児相の組織的な問題点も指摘されている。

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 また、完璧を求める雄大被告の性格が、再婚相手の娘である結愛さんへの度を越した暴力につながったという見方は、赤の他人同士がいきなり「親」と「子」になるという事態を簡単に捉えすぎているとも言える。

 大阪府枚方市でステップファミリー向けに配布されている冊子では、「パートナーと子どもの関係」について以下のように記されている。

<パートナーは「愛している人の子どもは愛せるはず」と意気込んで、親子になることを焦りがちです。また、周囲もそのような期待をもつことがあります。しかし、ちょっとしたことで子どもの拒否にあったり、思い通りにいかなかったりして自信をなくすなど、結婚前には想像もしなかったことが起こりがちです>

 そこにあるように、ステップファミリーが最初からスムーズに家族関係を築けないのは当然のことだ。「周りから血を繋がっていないことを、悪いと思われるんじゃないかという不安が強かった」という雄大被告の言葉が本音であるのなら、雄大被告と優里被告が“出会ったこと”ではなく、家庭を築いていく過程での支援が必要だったはずだろう。

 たとえば「血が繋がっていなくても家族だから大丈夫」というような綺麗事ではなく、「うまくいかなくて当たり前だから大丈夫」との励ましや、「厳しくしつけるのは逆効果で、このように接するほうが良い」といった具体的なノウハウが、届いていれば。今さら何を言っても後の祭りで結愛さんの命は戻らないが、虐待による犠牲者をこれ以上出さないためにも、加害者を責めるばかりでなく再婚家庭への支援について検討するなどの建設的な議論が欲しい。繰り返しになるが、加害者のパーソナリティに矮小化できるような問題ではないはずだ。

最終更新:2019/11/04 05:30
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