世界第2位の映画大国に自由はない! 突如公安が乗り込んできて検閲! 中国映画1兆円市場・真の良作
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検閲を逃れる独立電影シーン
では、中国の映画作家たちは、そんな検閲に対抗するために、どのような手段を取っているのだろうか?
90年代以降、中国では「独立電影」と呼ばれるインディーズ映画が製作されてきた。検閲を受けない代わりに、中国国内の映画館における上映を諦め、自主的な上映会や、国外の映画祭への出品といった方法に活路を見いだしてきたこのシーンは、デジタル機器の発達も相まって、00年代以降急速に盛り上がっていった。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得したジャ・ジャンクーや、天安門事件を描いた『天安門、恋人たち』を未検閲のままカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品したことから5年間の活動禁止処分を受けたロウ・イエ、これまでカメラが入ったことのない中国の精神病院内部を映した『収容病棟』などで知られるワン・ビンなど、国際的な映画祭で活躍する監督たちもこのシーンの出身だ。
しかし、シーンが盛り上がりを見せるにつれて、当局は独立電影に対しても厳しい目を向けるようになる。特に、その弾圧が強まっていったのが、11~12年にかけて。北京インディペンデント映画祭は開催前日に当局によって中止を言い渡された。また、別の映画祭では突如公安が乗り込んできて検閲を要求したり、映画祭を中止にする代わりに会場となる地域一帯を停電にするといった、他国では考えられない妨害を繰り返した。
そんな当局による執拗な圧力が成功したのか、ここ数年、独立電影シーンの存在感は徐々に薄れつつあるという。また、独立電影が下火になった一因として前出・市山氏は、「当局の圧力だけではなく、中国映画のバブル的な状況も関係があるのではないか」と指摘する。
「近年の映画バブル的な状況は、独立電影の作家たちをも変えつつあります。資金があふれている中国では、無名の作品であっても制作資金を集めやすい環境になっており、1億円の製作費を集めることも可能です。また、乱立するネット配信企業がコンテンツを探しているため、配信契約を結べば最低3000万円を保証するといった条件が提示されることも珍しくない。ただ、出資を受けるためには検閲を通して一般公開をすることによって資金を回収するのが条件となります。そんな状況が、独立電影の映画監督たちに検閲から自由になるために無理して自己資金で映画を製作するよりも、検閲を受ける代わりに資金的な自由を獲得してクオリティの高い映画づくりを優先させる流れを生んでいるのではないか。映画をめぐる環境の変化も、独立電影が勢いをなくしていった一因でしょうね」
検閲に対抗するのではなく、あえて体制の監視下に入って映画づくりを行う道を選んでいる中国の若手映画監督たち。では、今後、中国において体制に抵抗するような作品はますます生まれにくくなってしまうのだろうか? そんな疑問に対して、前出の中根氏は、こんな兆候に一筋の光明を見いだす。
「近年、商業映画の中でも、これまで描くことがタブーとされてきた中越戦争(79年に勃発した中国とベトナムの戦争。事実上、中国軍の敗退)を描いた『芳華―Youth―』や、コメディながら実際の事件をモチーフにして中国国内における高額薬の問題を描いた『ニセ薬じゃない!』といった社会派の作品も検閲を通過し、興行的にもヒットしています。目の肥えてきた観客がこのような作品を求め、積極的に評価するようになれば、今後も骨太なテーマを持つ作品が上映されていくのではないでしょうか」
とはいえ、検閲の枠組み内で活動する以上、天安門事件やチベット問題など、国家の根幹を揺るがす事件をテーマとした作品を制作することは絶対に不可能であり、同性愛を直接的に描くことも現状では難しいだろう。
不明瞭な基準による検閲制度のもとで、拡大の一途をたどる中国の映画産業。これを支配する中国政府の意向が、全世界の映画産業に大きな影響を及ぼしていくのも時間の問題だ。
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