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バブルと検閲の(裏)事情

世界第2位の映画大国に自由はない! 突如公安が乗り込んできて検閲! 中国映画1兆円市場・真の良作

ベルリン映画祭で上映中止になった巨匠

 そんな「政府の思惑」が、輸入規制以上にダイレクトに反映されるのが検閲制度だ。

 中国では、すべての映画に対して検閲が義務付けられており、「暴力描写」「同性愛描写」「オカルト表現」「公序良俗に反する描写」「政治的にデリケートな問題」といった項目で問題があると見なされると、削除や修正指示が出され、従わなければ制作や上映は許可されない。中国国内で製作された映画はもちろん、中国国内で上映される外国映画も検閲の対象となっており、昨年世界的な大ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディ』は公開こそされたものの、同性愛についての描写がすべてカットされてしまった。同様に、数々の映画が検閲によって上映禁止や修正処理という苦汁をなめてきたのだ(※コラム参照)。

 東京フィルメックスのディレクターであり、中国の映画祭でもコンペティション審査員を務めている市山尚三氏は、中国の検閲事情を次のように語る。

「中国では、検閲の基準が明文化されておらず、上映禁止になったとしても『技術的な問題』としか発表されません。おそらく、内部では基準があるはずですが、一般には公開されていないんです。その結果、検閲の基準は、検閲委員会に集められた審査員によって、あるいは検閲を受ける都市によってもまちまちという状況になっています。

 今年のカンヌ国際映画祭に出品されたディアオ・イーナン監督『ザ・ワイルド・グース・レイク』の劇中には、バイクに乗っているキャラクターの首がヘルメットごと吹き飛ぶという残酷描写がありました。日本ならばR指定を免れないそんな描写が含まれているにもかかわらず、中国では検閲を通過している。おそらく、この映画を担当した検閲委員会の基準が緩かったのでしょうね」

 そして昨年、そんな検閲制度をめぐって、大きな変更があった。これまで、国家新聞出版広電総局に属していた検閲を担当する部署「国家映画局」が、共産党中央宣伝部の管轄下へと移行したのだ。この制度改変によって割を食ったといわれるのが、『HERO』や『LOVERS』『初恋のきた道』といった作品で知られる中国映画の巨匠チャン・イーモウ。今年のベルリン国際映画祭で、その事件は勃発した。

「これまでの検閲は、映画界の実情を知っている人間が窓口を担当していたため、『カンヌに出品することが決まったので、早く委員会を招集して検閲を行ってほしい』といった融通は利いていた。しかし、共産党宣伝部が窓口になることで、そんな融通すらも難しくなってきているようです。

 今年5月、チャン・イーモウの作品『ワン・セカンド』がベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品される予定だったものの、直前になって“技術的な問題”から、上映が取りやめになったと発表されました。チャン・イーモウはこれまで、文化大革命を扱った『活きる』が許可を得る前にカンヌ映画祭で上映されたため、その後の国内での公開が禁止されてしまうなど検閲によって辛酸をなめてきた人物。検閲制度の事情は知悉しているはず。そんな彼の作品も、新たな検閲制度を前に、上映中止という事態に陥ってしまったんです。

 ただ、検閲そのものの基準が変更されたのかについては、まだ定かではありません。今後、どのような作品が出てくるかによって、現在の基準が明らかになってくるのではないかと思います」

 インターネット上の検閲に目を移せば、中国国内での規制は年々厳しくなっており、これまで抜け道となっていたVPNの使用も危ぶまれている。今後、共産党政権が映画産業に対してもこれまで以上に強い規制をかけていくという流れは十分に考えられるだろう。

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