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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 『解放区』は何が問題だった?

西成を舞台にした『解放区』は何が問題だった? 阪本順治×太田信吾監督が邦画界の内情を語る

被写体を搾取するメディア

引きこもりから脱しようともがく青年を演じた本山大。物語の後半、彼が叫ぶ台詞は胸に迫るものがある。

――『解放区』の終盤、主人公に誘われる形で西成を訪れた引きこもりの青年(本山大)の「どん底にいる人間の気持ちを一度でも考えたことがあるのか?」という言葉は心に刺さりました。「メディアは人を救うことはできない」という叫びにも聞こえました。あの台詞はどのようにして生まれたんでしょうか?

太田 学生時代にドキュメンタリーの制作会社でバイトをしていた時期があったんですが、そのときの体験がベースになっています。カメラを回している側が上から目線で撮影していることに疑問を感じたんです。自分たちは安全な場所にいて、取材対象を都合いいように加工している。それってメディアによる搾取じゃないかと思ったんです。それと現実に起きているニュースをまるで他人事のように受け流す社会の風潮もどうなのかなと。自分の問題に置き換えながら、『解放区』を観てもらえればなと思います。他者の物語を奪い、身勝手に調理するのではなく、僕の映画の現場は、スタッフも含めた個々がそれぞれの物語を持ち寄り、誤解や偏見を解きながら想像を常に更新し続ける公園のような場でありたいですね。

阪本 ドキュメンタリーだからできることもある。劇映画だからやれることもある。目の前にある問題に向き合って、自分たちの映画をつくっていくしかないんじゃないかな。

太田 大阪のテアトル梅田や地方でも11月から『解放区』の上映が始まります。合宿所を提供してくれるなど、西成での撮影を支えてくれたカフェ「アース」のマスターは大阪での上映をすごく喜んで、映画のポスターをあっちこっちに貼ってくれています。飛田新地には昔からある成人映画館が残っていたりするので、そういう劇場でも上映できると面白いかもしれません。西成のみなさんと一緒に映画を楽しめればいいなと思っています。

(取材・文=長野辰次、撮影=尾藤能暢)

『解放区』

監督・脚本・編集/太田信吾

出演/太田信吾、本山大、山口遥、琥珀うた、佐藤亮、岸建太朗、KURA、朝倉太郎、鈴木宏侑、籾山昌徳、本山純子、青山雅史、ダンシング義隆&THE ロックンロールフォーエバー、SHINGO★西成

配給/SPACE SHOWER FLIMS R18+ 10月18日よりテアトル新宿にて公開中、11月1日(金)よりテアトル梅田ほか全国順次公開

(C)2019「解放区」上映委員会

http://kaihouku-film.com/

●太田信吾(おおた・しんご)

1985年生まれ、長野県出身。大学の卒業制作として撮ったドキュメンタリー作品『卒業』(09年)がヨコハマ国際映像祭2009入選、イメージフォーラムフェスティバル2010優秀賞・観客賞を受賞。初の長編ドキュメンタリー作品『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(13年)は山形国際ドキュメンタリー映画祭2013ほか国内外の映画祭に出品された。初の長編劇映画『解放区』は2014年の完成後、東京国際映画祭2014日本映画スプラッシュ部門などに選ばれ、2019年に劇場公開が決まった。『情熱大陸』(TBS系)などのテレビ番組の演出も手掛けたほか、俳優としても活躍中。

●阪本順治(さかもと・じゅんじ)

1958年大阪府生まれ。横浜国立大学中退。在学中より、石井岳龍監督らの製作現場にスタッフとして参加。赤井英和主演映画『どついたるねん』(89年)で監督デビュー。新世界を舞台にした『どついたるねん』、『王手』(91年)、『ビリケン』(96年)は「新世界三部作」と称されている。その他の主な監督作に『トカレフ』(94年)、『顔』(00年)、『KT』(02年)、『闇の子供たち』(08年)、『行きずりの街』(10年)、『人類資金』(13年)、『エルネスト もう一人のゲバラ』(17年)など。今年2月に劇場公開された稲垣吾郎主演作『半世界』は現在DVDがリリース中。

最終更新:2019/10/28 15:22
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