西成を舞台にした『解放区』は何が問題だった? 阪本順治×太田信吾監督が邦画界の内情を語る
#映画 #インタビュー
『解放区』が助成金を返上することになった経緯
――『解放区』は大阪市から助成金を受けて製作されたものの、完成後に大阪市から内容修正を求められ、助成金60万円を返上したことがニュースになりました。自主映画を撮っている若者にとって、60万円は大きいですよね。
太田 カツカツで映画を撮っている者にとって、かなりの金額です。大学を卒業した後、正社員として働いていた時期もあったんですが、7年がかりで撮影した前作『わたしたちに許された特別な時間の終わり』の評判がよかったこともあり、会社を辞めて『解放区』を撮ることに専念していたので収入はありませんでした。それまでの蓄えと僕の映画づくりを理解してくれる人からの個人的な支援で撮ったものです。CO2(シネアトス・オーガニゼーション大阪)という大阪の映画組織を通じて、事前に脚本を渡し、西成で撮影することやドキュメンタリータッチの作品になることは大阪市側にも伝えていたんですが、『解放区』が完成した後から、三角公園など西成と分かるシーンはカット、西成のことを「どん底」と呼ぶ台詞や「統合失調症」などの言葉も使わないようにと言われたんです。それではこの映画が成り立たなくなってしまう。CO2はすごく懸命に動いてくれて、僕が大阪市側と直接話す場も設けてくれたんですが、話し合ってもダメでした。一度は向こうの修正案に譲歩したものを編集したんですが、それもダメということで。
阪本 役人は自分の経歴にキズがつかないようにすることしか考えてないからね。表現する側の立場になって、考えることはしない。自分が監督した映画の中にも助成金を受けた作品はあるけど、映画の完成後しか助成金は受け取れない。作る側としては撮影前にお金が必要なんだけど、そういった都合はまったく通じない。もちろん、そんな人ばかりじゃなくて、文化支援にちゃんと理解ある役人もいるはずだけど、太田監督はそうじゃない人に当たってしまったわけだ。
太田 結局、助成金は返上して、『解放区』は本来の形のまま上映できる場を探すことになったんです。2014年の東京国際映画祭などで上映されて、観た人たちからの反応はよかったんですが、配給は決まりませんでした。一度、配給に名乗りを挙げてくれた人がいたんですが、多忙らしく、その人に預けたまま劇場公開が決まらない宙ぶらりん状態が続き、5年が経ってしまった。それまで音楽映画を主に配給していた「SPACE SHOWER FILMS」が音楽映画ではない配給第1弾作品に選んでくれ、ようやく劇場公開に辿り着きました。この5年間は、この映画を熟成させるために必要な時間だったと考えるようになりました。助成金問題も、宣伝のネタに活用してやろうと今ではポジティブに受け止めています(笑)。
日本映画界の構造的な問題
阪本 映画をプロデュースする立場の人間は、映画をつくるだけでなく、どうアウトプットするかも常に考えないといけない。僕が撮ったドキュメンタリー映画『ジョーのあした ―辰??一郎との20年―』も、なかなか配給会社が決まらなかった。ライブハウスなどを借りて自主上映することもできたけど、20年以上の時間を費やしてフィルムで撮影した映画だから、ちゃんとした配給会社に頼んで劇場公開したかった。無償で長年働いてくれたスタッフに、少しでもギャラを渡したかったしね。
太田 僕もちゃんとした配給のプロに頼みたいと思い、それで時間が経ってしまいました。阪本監督の作品の中には、映画の完成から公開まで寝かしたことで逆によかったものはありますか?
阪本 いや、映画が完成したら、「今を撮った作品だから、早く公開してくれ」と自分はいつも頼んでいる。でも、今の日本は映画の公開本数があまりにも多すぎて(※2018年度の映画公開数は邦画613本、洋画579本、合計1,192本)、スクリーンの奪い合い状態。小さなミニシアターで上映期間は1週間、しかもモーニングショーの1日1回だけの上映で、どれだけの人が観ているんだということにもなっている。これはDVDなど二次使用する際に「劇場公開作」という肩書きを入れるためだけの上映ですよ。
――シネコンで上映される作品も、初週の集客が思わしくないとすぐに打ち切られてしまいます。
阪本 配給の問題は難しい。あまりこちらから劇場側にうるさく言うと、「そこまでおっしゃるなら補償金は用意できますか?」と訊かれるしね。制作プロダクションも下請け会社化して、疲弊しきっている。結果、制作プロダクションがどんどん潰れている現状がある。その一方、「製作委員会」に参加している企業側はどこも懐を痛めない構造になっている。う~ん、これ以上は映画業界の悪口を言うのを止めます。いつまで話しても埒が明かないから(苦笑)。
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