自伝出版は“不謹慎”か? 収監直前ラッパーD.Oが告白する悪党の美学
#インタビュー #ヒップホップ #ラップ #D.O
逮捕されたことが親孝行の機会になった
――“自伝”というものは人生の何かしらの節目で出すものだと思うのですが、今D.Oさんが置かれている状況はある意味では節目だし、ある意味では渦中だし……。
「なんて言うか……恵まれてるんですかね(笑)」
――ラッパーの自伝を出すタイミングとしてはバッチリだと。
「そうなんですよ。あと、この本の最後のほうに母親ががんで闘病しているという話を書きましたけど、8月に逝きまして。おふくろには『3年いなくなるけど、ちょっと待っててよ』って伝えていたものの、余命宣告もされていたし、正直、難しいかなと思っていました。それが収監前に看取ることができたんです」
――そうだったんですね……。お悔やみ申し上げます。
「だから、期せずして追悼本にもなったわけで、本当に運命的なタイミングで出たなと」
――では、そもそものところから伺います。制作には3年以上かかっているということですが、自伝を出そうと考えたのはなぜだったのでしょうか?
「そこはやっぱり、漢(a.k.a. GAMI/ラッパーで、D.Oが所属するレーベル〈9SARI GROUP〉のオーナー)の影響が強いと思うんですよね」
――漢さんの自伝『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社)は2015年6月の刊行以来、ロングセラーとなっていますよね。
「漢から『D.Oもやってみなよ』みたいに勧められたことが、実際に制作に入るきっかけになっているんですけど、その前からやってみたかったし、『オレならこうしたい』『ああしたい』というアイデアもあって」
――『悪党の詩』では、もともと「僕がメイクしてきたヒップホップと漢がやってきたヒップホップは別物だと認識していた」と書かれています。それが、14年に〈9SARI GROUP〉に所属することになるわけですが、“自伝”というフォーマットにしても漢さんとはまた違ったアプローチをしようと考えた?
「もちろん、『ヒップホップ・ドリーム』はお手本にさせてもらいました。でも、やっぱり違いはある。僕は漢に“フリースタイルのチャンピオン”というイメージを持っていて。自然体でヒップホップをメイクしていくスタイルですね。一方、僕は時間をかけてつくり込んでいくスタイル。当然、違うから面白いし、だからこそ2人並んだときに映えるっていう。その違いを本でもちゃんと表現できた自負はありますね」
――そのようにつくり込んだため3年以上かかったのでしょうが、制作期間中の18年5月に逮捕されるというトラブルも起こりました。同年秋に始まった裁判の展開によっては、さらに刊行のタイミングが延びた可能性もあったわけですよね。
「当初は『獄中出版になるのかな』なんて話をしていたんですけど、裁判に時間がかかったのでこっちにいる間に出せることになって、こうやってインタビューも受けられて。でも、本来、こんな案件で最高裁まで持っていくなんて、マジで図々しいんですよ(笑)」
――図々しいというか、あまり前例がなさそうですね。
「僕としても勝てるとは思っていたわけではなくて、控訴したのはその時間を使って、闘病しているおふくろとなるべく一緒にいたい、できることなら看取りたいと考えたからなんです。これまで何もしてこれなかったですからね、親孝行は。心配ばっかりかけてきました。でも、これが普通に活動している時期だったら仕事で地方に行ったり海外に行ったりしなければならないんで、毎日、病院に通うなんてことはできなかったと思うんですよ。だから、逮捕がむしろ親孝行の機会をつくってくれたようなところもあって、それも運命的だなぁって」
――ちなみに、逮捕から収監の間に発表したものは『悪党の詩』以外にもあって、勾留中の18年7月にはミックスCD『悪党 THE MIX』が、その後も漢さんとつくった楽曲「スタンド・バイ・ミー」「7 days war 2 4」といった新曲が出ています。薬物事犯で裁判中のアーティストがこれだけ精力的に活動することも日本では前例がないですし、そのこと自体、今の社会に対するメッセージにもなっていると思うんですよね。音楽家や俳優が捕まると、すぐに作品の公開を止めたり商品を回収する風潮があるわけじゃないですか。それに対して、D.Oさんや電気グルーヴのピエール瀧さんの相方、石野卓球さんが構わず活動を続けることによって、世間の雰囲気は変わりつつあるのかなとも思うんですが。
「電気グルーヴもカッコよかったですよね。でも、根本的に間違ってとらえている人たちばっかりで。何があっても活動を続けることはプレイヤーとして当たり前じゃん、と。もともと、僕は逮捕されると『辞めます』『許してください』みたいな流れになることはおかしいと思っていました」
――ラッパーが捕まることも多いですけど、その騒動の中でイメージが変わってしまう人もいるじゃないですか。
「たくさんいますよね」
――対して、D.Oさんは普段、ラップしていること、話していることと筋が通った態度でいたい。
「そうですね。そこにはこだわりたくて。例えば、最近『全裸監督』(Netflix)がキテるじゃないですか。あれ、この間、全部観たんですよ。何が一番良かったかといったら、やっぱりブレないっていうか。自分の信念、やりたいことを、何が起きても貫くっていうか。逃げない。もちろん、僕もこれまでいろいろなことから学んできたわけですけど、『全裸監督』を観て、改めて目の前の現実から逃げないことが重要だなと」
――『全裸監督』にもエピソードとして出てきますが、村西とおるさんはアメリカで懲役370年を求刑されているし、いまだに前科があることを堂々と語っていますからね。
「すごいなぁ。超リスペクトですよ、あの人。面白い」
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事