星野源『おげんさんといっしょ』が挑戦する、”わからない”という楽しさ
#木村拓哉 #中山美穂 #マツコ・デラックス #星野源 #テレビ日記
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(10月13~19日)見たテレビの気になる発言をピックアップします。
星野源「世界で一番カッコいい音をいま出してる自信がある」
星野源の偏愛的音楽トーク番組の第3弾、『おげんさんといっしょ2019』(NHK総合)が14日に放送された。お母さん役の「おげんさん」に扮した星野、お父さん役の高畑充希、長女の隆子(たかしこ)を演じるのは藤井隆。そんなおげんさん一家を中心にトークや音楽のセッションが行われる、ほぼ生放送の番組である。
おげんさん(星野)「お父さん」
お父さん(高畑)「なんだいお母さん」
2人のそんな会話で始まった今回の『おげんさん』。そこに、セーラー服で三つ編みの藤井が加わる。年齢も性別も錯綜した配役なのだけれど、もうそんな画面も見慣れたものだ。昨年末にはこのメンバーで紅白にも出場しているのだから。第2弾の放送ではTwitterのトレンドで世界1位も獲得したのだから。
しかし、放送を重ねるごとに高まる番組への注目をいなすように、星野は冒頭でつぶやく。
「この番組のリビドー、それはダラダラしたいっていうその一心よ」
他方で、ハマ・オカモトらを抱えたおげんさんバンド(おげんさん一家の兄弟姉妹という設定)のメンバー紹介を終えた星野は、こうも言う。
「このメンバーで今日もダラダラと本当の音楽をやっていくわよ」
ダラダラと、しかし本当の音楽をお届けする。そんなコンセプトがこの番組の中心にある。
今回はこれまでの2回よりも長い90分の放送だ。その放送時間の中で、三つ編みをほどいた藤井が洋楽を歌い上げ、髪を結い直して再登場する。チャイナ服を着て紫色のウィッグをかぶった松重豊がスナックのママ役として登場し、実は私はおげんさんの乳母であると語る。ビヨンセ役の渡辺直美が出てきて例の曲「Crazy in Love」を歌うように促されるも、何度やっても「OK」とか「カモン」とか言い腰を振るだけでまったく歌わない。出演者たちのダラッとした、でも本当の音楽を介したやりとりが、ずっと中火の火加減で面白く続く。
出演者たちが好きな音楽を語り合う時間も、今回はたっぷりとられた。藤井がイギリスの80年代のユーロビートについて語り、松重が若い洋楽アーティストを紹介していた。
ただ、わからない。何がわからないって、音楽に明るくない僕は、この洋楽トークに出てくる人名や曲名など固有名詞がまったくわからなかった。いわば、ビジーフォーの洋楽モノマネを、似てるかどうかわからないのにうなずきながら聴いている審査員の状態。唯一わかったのは、藤井のカラオケ仲間として名前が挙がった、椿鬼奴とレイザーラモンRGだけだった。
もちろん、詳しい人にはよく知られた名前が並んでいたはずだ。けれど、どうなのだろう。番組を見ていたほとんどの人はあのトーク部分、ほとんどわからなかったのではないだろうか。ビジーフォーを聴く審査員の状態、たとえば定岡正二状態だったのではないか。
だとしたら、それは今この2019年の時点において、とても稀有なことだったと思う。一方で「わかりやすさ」をうたう番組がラテ欄を覆い、他方でそんな番組を見る人がネット上で「情弱」と嗤(わら)われる。そういう「わからない」ことを嫌う情景が当たり前な中で、「わからない」情報を芸能人がしゃべり、それが淡々とテレビの電波に長時間乗っていたということなのだから。
でも、「わかること」をつなげても、それはそれまでの自分の延長上。「わからない」中で期せずして出会う情報が、人をまったく新しいところに連れて行ったりもするはずだ。
番組中、ラッパーのPUNPEEらとのセッションを終えた星野は、ギターを下ろしてこう言った。
「世界で一番カッコいい音をいま出してる自信がある」
世界一カッコいい音に乗せて、わからない人にはよくわからない情報が画面を通じてたくさんお届けされた時間。こんな時間が、もっとテレビの中にあったらいいのになと思った。
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