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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 5年間お蔵入りになった過激作
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.553

助成金問題で騒がれた西成ロケ作品が封印解除! 観る者の脳内麻薬を分泌させる過激作『解放区』

誰もがホームレスになれる自由な街

人と人との間に距離がある東京と違い、大阪の西成は良くも悪くも人との間に距離がないことを本山(本山大)は実感する。

 大阪・西成はとても自由な街だった。誰でも簡単にホームレスになれるし、ジャンキーにもなれる。東京から来た須山と本山はビラを配りながら、不良少年を探すが、そう簡単には見つからない。失踪することすら簡単な街だった。やがて別行動するようになった須山は呑み屋で意気投合した名前のない女、自称・AV女優(琥珀うた)との生セックスを楽しむ。一方、真面目に不良少年を探し続けていた本山だが、街でボクシングジムを見かけ、大学時代にキックボクシングの練習に打ち込んでいたことを思い出す。東京で居場所を失った須山と本山だったが、どん底の街に辿り着き、すべてのしがらみから解放される心地よさを感じていた。

 とことん自由な街・西成は、逆にいえば誰もが剥き出し状態にされる街でもある。「若者のリアリティー」を求める須山は、自分の都合しか考えない薄っぺらい人間であることが露呈していく。本山が仮払いした経費をまったく精算しようとしない須山に、それまで我慢していた本山がブチ切れる。肝心の不良少年は見つからず、所持金のなくなった須山は、西成という街のリアリティーに呑み込まれてしまう。本山もまた東京から逃げ出したものの、ずっと不仲だった家族との関係性や今後の生活はどうするのかといった根本的な問題を突き付けられる。どん底の街で、さらなるどん底へと落ちていく須山と本山。そんな中、須山はダメ人間なりのリアリティーを求めて、ある決断を下すことになる。

 3週間にわたってドヤ街で合宿生活を送りながら撮影された、ディープ関西の生々しさに目がクギづけとなる。無料の炊き出しや教会が用意した食パンの配給にオッチャンたちが並び、公園では地元出身のラッパーが無料ライブを開いている。飛田新地のちょんの間では、美女が微笑む。どん底の街ならではの、底抜けな自由さが映像には溢れている。ひげ面で青臭い理想を口走るキモい系の主人公・須山を演じた太田監督、太田監督とは長年の知人で撮影時は無職状態だったという本山役の本山も、初めての劇映画と西成という街の特殊性に浮かれ、テンションが上がりまくっている。どこまでが演技なのか、それとも現実なのか。劇映画とドキュメンタリーの境界線さえも取っ払われた自由奔放さが本作にはある。

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