ジャッキー・チェンは今や傍流…ブルース・リーから『イップ・マン』へ! カンフー映画の盛衰と進化の旅
#映画 #中国 #香港
時代や舞台が限られるカンフー映画の未来は?
そのようにアクション映画が現代化・リアル志向に変化する中で、往年のジャッキーやブルース・リーが見せたような純粋なカンフー映画は減少。「ただ、今もカンフー的な要素が強く、香港映画のスピリットを感じる作品はあります」と平田氏は話す。
「孫文の暗殺をもくろむ敵をひたすらアクションでなぎ倒しまくっていく『孫文の義士団』(09年)は、カンフーイズムを猛烈に感じる作品でした。また『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』(16年)のアクション監督はサモ・ハン。内戦下の中国が舞台の作品で、アクションはカンフーまみれです。あとカンフーへのリスペクトを感じたのはドニー・イェン主演の『カンフー・ジャングル』(14年)。過去に名を馳せたカンフーの達人たちが路頭に迷う姿も描き、現実のカンフー映画の衰退が反映されたレクイエムのような作品でもあります」
またカンフー的なアクションを新しい描き方で表現する作品も登場している。
「『ファイナル・マスター 師父』(15年)は香港ではなく中国本土出身のシュー・ハオフォンが監督した作品。派手さやケレン味はありませんが、その分リアルで怖いんです。香港映画とは違うもの、新しいものを撮ろうという監督の意図が伝わってくるおもしろい作品でした」(平田氏)
今の時代でも、撮り方次第でカンフー映画はおもしろくできるわけだ。
「シュー・ハオフォン監督はもともと武侠小説を書いていた人で、映画の中でも武術家の思想や生き様をメインに描いています。映像も絵画のような雰囲気で非常に独特ですね。“カンフーそのもの”へのリスペクトを捧げつつも、表現として少しひねったことを行っている点は『カンフー・ジャングル』と同じだと思います」(藤本氏)
一方で中国映画では、『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(17年)や『オペレーション:レッド・シー』(18年)のようなミリタリーアクション超大作、『流転の地球』(19年)のようなSF超大作が自国で大ヒット中。「ハリウッド大作を意識したようなCGバリバリの作品や、解放軍全面協力の国策的な映画が主流になってきています」とくれい氏は話す。また香港でも、自国の映画よりハリウッド映画が強い状況は変わっておらず、カンフー映画の人気は想像以上に低いようだ。
「香港の20代の人と話すと、ハリウッド映画や日本のアニメなどには詳しくても、昔のカンフー映画はほとんど知らなかったりしますからね。ショウ・ブラザーズの映画がDVD化されたのも、ハリウッドでカンフー映画が話題になった00年頃からですし、古いものを見直す文化があまりない国なんです。ただ、タランティーノの新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(8月30日公開)にもブルース・リーが登場しますし、そうしたきっかけで香港でもまたカンフー映画に注目が集まるかもしれません」(くれい氏)
藤本氏も「今後は配信の分野でカンフーの人気が高まる可能性はある」と話す。
「ドラマでもアクション要素の強い作品は増えていますし、ドニー・イェンが『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16年)に出演したように、アメリカでもアジア人俳優の活躍の機会は増えています。アクションドラマ『バッドランド~最強の戦士~』(15年~)は、ジャッキーが見出した中国系アメリカ人俳優のダニエル・ウーが製作・主演していますし、『ザ・レイド』のイコ・ウワイスが主演でNetflixで配信予定の『Wu Assassins』もカンフーアクションが見られそうなドラマです」(藤本氏)
香港映画では中心から退き、中国でもメインの存在ではないカンフー映画だが、世界には一定数のファンがおり、“ジャンルムービー”的なポジションは確立しているわけだ。
「そもそも純粋なカンフー映画というのは、時代や舞台を限定しないと成立し得ない作品で、ジャンルとしてはかなり特殊なもの。現代の話にすると銃などの要素が入ってきて、違う種類のアクション映画になってしまうんです」(藤本氏)
優れた性能の武器が存在する世界では、アクションをリアルに進化させないと絵空事に見えてしまうカンフー映画だが、「カンフー映画のいちいち腹を何発も殴ったりするアクションは、ムダなんですけどやっぱり面白いんですよね(笑)」と平田氏。香港で育まれたサービス精神も過剰なアクションは、これからもポップな存在として映画やドラマの中で受け継がれていくはずだ。
香港で公開されない新作も……ジャッキー・チェンも今や香港で嫌われ者?
ブルース・リーと並ぶカンフー映画界の2大スターで、今も現役で活躍中のジャッキー・チェン。だが先の香港の「逃亡犯条例」改正反対の大規模デモについては、インタビューで「詳しい事情は知らない」と答えて大ひんしゅく。デモで香港が揺れる最中に、YOSHIKIがジャッキーとの会食写真をインスタグラムにアップして炎上する騒動もあった。そもそも彼は中国映画家協会副主席という肩書も持っており、過去には中国共産党を擁護する発言も行っている。
「彼はもともと中国(安徽省)にルーツを持つ人ですし、フィルムメーカーとしていち早く中国で映画を成功させた人でもある。映画界で後進を育てた功績なども大きい人ですが、意思を持って香港に残った映画人からは嫌われても仕方ない立場だと思います」(藤本氏)
香港での一般人からの人気も今はないという。
「はっきり言って、中国資本メインになった近年のジャッキーの映画はおもしろくなくなっていますし、現に香港で公開されない作品も出てきている。残念ながら、彼の存在は香港人の心にはまったく残っていない状況です」(くれい氏)
なんだかんだでジャッキーの新作を今も楽しみにしている日本人のほうが、今や香港人以上にジャッキーにとって優しい存在となっているのだ。(サイゾー8月号『中韓(禁)エンタメ大全』より)
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