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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 多部未華子のユーモアと愛嬌
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

多部未華子『これは経費で落ちません!』”不愛想”が生むユーモアと愛嬌

朝ドラ主演からコメディエンヌ

 転機となったのは2005年に出演した2本の映画『HINOKIO』と『青空のゆくえ』。この2作の演技が高く評価され、ブルーリボン新人賞を受賞した。

 そして09年にはNHK連続テレビ小説『つばさ』のオーディションで、1593人の中からヒロインに選ばれる。

『つばさ』もそうだったが、民放での連続ドラマ初主演となった『山田太郎ものがたり』(TBS系)以降、多部はコミカルな役を演じており、若い頃からコメディエンヌとして完成された演技をしていた。

 ただ、彼女の場合、無理して笑わせるというよりは、立っているだけで不思議な存在感を見せており、それが結果的にコメディにつながっていたという印象がある。 

 出世作となった映画『君に届け』(10)では(外見がホラー映画『リング』の貞子に似ているため)周囲から恐れられているが、実は純粋で真面目な性格の黒沼爽子を筆頭に、彼女が演じる役は、内面と現実のズレを題材にした作品が多い。

 映画『ピース オブ ケイク』(15)では、流されるままに男と付き合っては別れる日々を送っている20代の女性、梅宮志乃を演じた。少女の面影が今も残る多部が演じるには痛々しい女性で、見ていて苦しい気持ちになる場面もあったが、同時にどこかユーモラスな作品だった。

 そして、最後のダメ出しとして彼女の最大の武器となっているのが、育ちの良さを思わせる丁寧な言葉使いだ。

 NHKドラマの主演が多いのは、そのあたりが理由だろうが、『これ経』の森若さんは、このすべての要素がそろった、彼女にしか演じられない一生に一度あるかないかのハマり役である。

 本人は至ってシリアスで、まったく媚びが見えない。むしろ愛想が悪いのに、それが巧まざるユーモアと愛嬌につながってしまう。それこそが多部の魅力だ。

 そんな彼女の結婚は娘を嫁に出すような喪失感があるが、年齢を重ねるほど幅が演技の幅が広がっていく女優だと思うので今後も楽しみにしている。仮に『これ経』の続編が作られるなら、太陽くんと結婚した森若さんを演じてほしい。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2019/10/15 09:24
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