バナナマン設楽統がフェイクドキュメンタリーで見せた、虚無な結論
#バナナマン #秋元康 #設楽統 #テレビ日記 #天童よしみ
秋元康「これだとやっぱり人間味がないというか」
ウソと本当の区別といえば、29日の『NHKスペシャル』(NHK総合)が興味深かった。30年前に亡くなった美空ひばりの歌声と姿をAIでよみがえらせる。さらに、そのAIに美空の新曲を歌わせる。そんなプロジェクトの一部始終を収めたドキュメンタリーである。
言わずと知れた昭和の大歌手を復活させるという、ある意味で大それた試み。チームには各ジャンルの一流がそろえられた。新曲の作詞とプロデュースを手掛けるのは秋元康。衣装のデザインは森英恵。動きをつけるのは天童よしみ。歌声を再現するのは、初音ミクで知られるVOCALOIDを開発したヤマハのエンジニアたちである。
もちろん、そう簡単にプロジェクトは進まない。エンジニアたちは苦闘する。過去の楽曲から、美空の歌い方と楽譜の関係のルールをAIは学習した。しかし、新曲「あれから」の曲調は、それまでの美空にはなかった現代的なもの。AIに歌わせてみると、部分的に美空っぽいところはあるけれど、全体的には拙い歌声に聞こえてしまう。
そして、公開まで1カ月半を切ったある日、開発中の歌声を「美空ひばり後援会」の面々に聞いてもらう機会が設けられた。そこでの評価は、「歌詞がわからない(聞き取れない)」「浅かった」「これだとひばりさんの本当の良さは出てこない」という厳しいもの。
秋元も同様の感想を漏らす。
「これだとやっぱり人間味がないというか」
「もうちょっと雑味というか、人間臭さとか、温かみとか」
もう、「人間味のなさ」とか「温かみ」とか言い始めると、じゃあAIで再現しなくていいじゃんみたいな感じもしてくるけれど、とにかくそんな意見を踏まえ、美空の声により近づけるためにエンジニアたちは奮闘する。高次倍音とか、音程やタイミングの微妙なズレとか、そういう要素を取り込みながら、AIの完成になんとかこぎ着ける。
そして、2019年9月3日、NHKのスタジオに200人の観客を迎え、秋元らプロジェクトチームも同席のもと、よみがえった美空ひばりがお披露目された。映し出される美空の姿。歌い始める美空の声。目元をぬぐう観客たち。手で顔を覆う天童。後援会の皆さんも「神様を見ている気持ちになった」と手放しで絶賛。この反応からも、今回のAIの完成度がとても高かったことがうかがえる。
あと、あまり関係ないけど、AIの美空が歌う様子を見つめる秋元の顔が画面に映ったとき、その顔をじっと見ている自分がいた。もしかして、目元に光るものでも浮かんでいるのではないか。そんなある種の下世話な期待感に基づく凝視だと思う。秋元に「人間味」や「温かみ」を感じようとしたのかもしれない。
さて、最後に秋元はカメラの前で語る。
「美空ひばりさんに会いたい、それと、美空ひばりさんの新曲を聞きたいという思いが、それがAIに力を貸してくれた。つまり、人間の思いを科学がサポートしてるという。ですから、AIというテクノロジーは技術が先行していくんではなくて、思いがあってその思いを具現化するために、必要なものだと思いました。やはり、科学というのは人間のそういう夢というか願いとか、それで奇跡を起こすものだと思います」
今回の技術には危険性もある。本人そっくりの元オバマ大統領のスピーチ映像が人工的に作られてしまうといった、いわゆるディープフェイク動画への転用の問題などだ。本当とウソの区別が今以上につきにくくなる時代へ。それに歯止めをかけるには、人の願いが重要なのかもしれない。ただ、悪用だって人のある種の願いの産物。どこまで歯止めになるのかは、ちょっとよくわからない。
そんなことを考えたりもしたけれど、今回の番組を見た私の願いとしては、次は五木ひろしのAIを作ってほしいということだ。動きをつけるのはコロッケで。
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