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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 『火口のふたり』世界の終わりを誰と過ごす?
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.546

最高のセックスパートナーは“いとこ”だった!?  世界の終わりを誰と過ごすか『火口のふたり』

セックスしている間だけは、生きていることを強く実感できる

若い頃の賢治と直子。富士山の火口を映したポスターの前で、2人は激しく愛し合った。その富士山がまさかの事態に……。

 2人で過ごす最後の2日間、原作では倉敷へと向かい、車中でペッティングに励むなど、寸暇を惜しんでエロスを堪能する。映画では秋田県羽後町の「西馬音内盆踊り」を見物に行く。この盆踊りは、踊り子たちが覆面で顔を隠していることから“亡者踊り”とも呼ばれている。誰が生者なのか死者なのか、分からないお祭りだ。結婚にもサラリーマン生活にも失敗した賢治も、好きでもない相手との結婚を決めた直子も、死んだような幽霊のような日々を送っていた。でも、2人でセックスしている間だけは、生きていることを強く実感できる。賢治と直子は紛れもない、魂の片割れだった。

 物語は終盤、タイトルが予感させるような不穏な状況へと向かっていく。世界の破滅が近づいていた。でも世界の破滅を控え、賢治と直子は運命の相手とようやく出逢うことができた。言い換えれば、世界の終わりを前にして、2人はタブーや世間体にとらわれずに、自分たちが悔やむことのない選択肢をようやく選ぶことになる。クライマックスで映し出される富士山の火口がなんとも艶かしく、エロチックだ。賢治と直子が身体の言い分に身を任せるように、今度は富士山が長年溜め込んだ欲望をいっきに吐き出す番だった。

 人類の歴史は、アダムとイブが愛し合うことから始まった。そして、この物語は兄妹同然に育った賢治と直子が本気で愛し合うことで終わりを迎える。賢治と直子は知恵の実を捨てたアダムとイブとなり、2人だけの楽園へと向かう。世界の終わりと始まりが、同時に訪れることになる。

(文=長野辰次)

『火口のふたり』

原作/白石一文 脚本・監督/荒井晴彦

出演/柄本佑、瀧内公美

配給/ファントム・フィルム R18+ 8月23日より新宿武蔵野館ほか全国公開中

(c)2019「火口のふたり」製作委員会

https://kakounofutari-movie.jp

※ 写真家・野村佐紀子の最新展『火口のふたり写真展』開催中

新宿3丁目・Bギャラリー(ビームスジャパン5階)~9月8日(日)まで。

 

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最終更新:2019/09/06 10:39
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