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素粒子物理学大国ニッポンの現在

日本に最先端人材が集まる都市は誕生するか?「リニアコライダー誘致」が持つ本当の意味

日本が支える加速器技術

■日本が支える加速器技術

 

計画が決定すれば、北上山地に大きな研究都市ができることに。©Rey. Hori / KEK
全長20キロにわたる施設の全容。©Rey. Hori / KEK

ーーそもそも、ILCを日本でつくる意味はどこにあるのでしょうか?

山下:量子を加速するために、中核装置として超電導加速器が使われます。これは、世界中で、日本で初めて実用化された装置が使われています。そもそも、日本では80年代に行われた「トリスタン計画」に始まり、近年も「Bファクトリー」「スーパーBファクトリー」など、優れた超電導加速器を開発してきたのが日本なんです。

 また、加速器をつくるためにはウィルスよりも遥かに小さな電子・陽電子をぶつけるための「ナノメートル技術」が必要になります。例えるなら、これは北海道と沖縄からライフルを撃ち、東京の上空でぶつけるほどのすごい技術。

 そこで「加速器技術」と「ナノメートル技術」、この2つを持っているのが日本なんです。技術的に、日本にILCをつくる理由はこの2つが大きいですね。

ーー日本には、ILCを生み出すための高い技術力があるわけですね。

山下:また、リニアコライダーができれば、世界中から人が集まることになります。日本は宗教色が薄く、特定の宗教や人種に対する差別も世界のほかの国よりは少ない。実は、そんな国はスイスと日本くらいなんです。スイス・ジュネーブにあるCERN(欧州原子核研究機構)には、全周27キロの円形加速器がありヒッグス粒子の発見をしました。

ーー日本国外にもILCのような計画はあるのでしょうか?

山下:中国では、全周100キロにおよぶ莫大なスケールのコライダー計画に着手し、30年代に完成を目指しています。しかし、中国の場合、超電導装置やナノ技術を持っていないためリニアコライダーのような直線加速器をつくることができず、円形加速器の計画になっています。ただ、円形の加速器の場合、電子を加速するとエネルギーロスが大きく、さらにエネルギーをあげると原発数個分と言われるエネルギーを消費してしまう。世界的には、これからの電子の加速器は直線型へと傾いているんです。

 また、ILCのようなプロジェクトは国際的な協力のもとでなければ絶対に成功しないのですが、中国は政治的に国際的な協力を得られにくい。とはいえ、中国は人をどんどんと集めています。日本では、オリンピック後に準備期間を経た上で着手したいと計画をしていますが、いい人材を獲得するためにも、早く準備期間に入らなければなりません。

ーー一方、科学技術大国であるアメリカはいかがでしょうか?

山下:実はアメリカにはかつて、「SSC(スーパーコンダクティングスーパーコライダー)計画」というトラウマがあるんです。

ーー「トラウマ」とは?

山下:レーガン政権時の83年に全周87キロにおよぶ巨大加速器が提案され、89年からは建設も開始された。日本やヨーロッパからも予算を取り付けていたのに、クリントン政権になった93年、突然キャンセルをされてしまった。これ以降、アメリカでは国際協力プログラムのリーダーシップを取ることができなくなってしまったんです。

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