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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.544

まるでカオナシみたいな音楽モンスターの自伝! 孤独な心が名曲を生み出した『ロケットマン』

エルトンはまるでカオナシ?

ソロミュージシャンとして成功したエルトンだが、作詞家のバーニー・トーピン(ジェイミー・ベル)は欠かせない仲間だった。

 本作の中で描かれるエルトンは、宮崎駿監督の人気アニメ『千と千尋の神隠し』(01)に登場する“カオナシ”によく似ている。エルトンと同じように、カオナシもどこにも自分の居場所がなく、指先から砂金の粒を出してみせることで周囲の関心を惹こうとした。でも、自分が本当に欲しいものは、容易には手に入らない。カオナシもエルトンも、そのことを知って破滅衝動に駆られることになる。欲望に身を任せてモンスター化したカオナシとエルトンは、誰の手にも負えなくなってしまう。

 中身が空っぽなカオナシは、そのままのカオナシを受け入れてくれる千尋や銭婆に出逢うことで救われる。カオナシが自分の居場所を見つけることで、『千と千尋の神隠し』は物語的に大団円を迎えた。エルトンも素顔の彼を理解し、見守り続ける親友がいることに気づき、さらには新しい恋人との出逢いが待っていた。カオナシもエルトンも自分のアイデンティティーを持てずに苦しみ続けるも、自分を必要としてくれる人、受け止めてくれる人と出逢いが、そのまま彼らのアイデンティティーとなっていく。カオナシもエルトンも、親から愛されなかったという自分で自分に掛けてしまった呪いからようやく解き放たれることになる。

 音楽の世界で大成功を収めるエルトンだが、父親からは結局一度もハグされることはなかった。禁酒会がリハビリに役立ったのかどうかも分からない。それでも彼はロック史に残る名曲の数々を残し、古い慣習に縛られることなく、愛のある新しい生活を手に入れる。親から愛された記憶のない人へ、孤独さを友として生きてきた人へ、そして自分にはアイデンティティーと呼べるものがないことに悩んでいる人へ。この映画は君の映画だ。

(文=長野辰次)

 

『ロケットマン』

製作総指揮/エルトン・ジョン 監督/デクスター・フレッチャー 脚本/リー・ホール

出演/タロン・エガートン、ジェイミー・ベル、リチャード・マッデン、ジェマ・ジョーンズ、ブライス・ダラス・ハワード、ステファン・グラハム、テイト・ドノヴァン、チャーリー・ロウ

配給/東和ピクチャーズ 8月23日(金)より全国公開

https://rocketman.jp/

(c)2018 Paramount Pictures.All rights reserved.

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最終更新:2019/08/21 10:17
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