NHKの何が問題か? 「公共放送の病」と70年前の政治的遺物である放送法
先の参院選で躍進した、NHKから国民を守る党(N国党)。「NHKをぶっ壊す」をスローガンに戦った立花孝志代表が当選を果たしたという事実は、見過ごせない。インターネット発信のみで認知度を高め、巨大メディアのNHKにノーを突きつけた。これほど鮮やかにテレビの凋落ぶりを示す選挙はいまだかつてない。
NHKは果たして、「みなさまの公共放送」と言えるのか。その信が問われることにもなった今回の選挙。これを機に、NHKを肥大化させる原因ともなった放送法の見直しについて、真剣に議論をはじめてもよいのではないか。
法律の庇護下に置かれた公共放送
受信料の支払い義務は、放送法第64条「受信設備を設置した者は、協会(NHK)とその放送の受信についての契約をしなければならない」が根拠となっている。テレビを置けば強制契約となるわけだ。契約が義務であって受信料の支払いは義務とは書かれていないのに、現状は月額1,260円(地上契約の場合)の支払いを要請される。年間にしておよそ1万4,000円である。料金の支払いに納得いかず不払いを貫き、NHKに訴えられた人は少なくない。
NHKの平成30年度決算概要によると、同年度の事業収入7,332億円のうち受信料収入は7,122億円。つまりNHKは国民から集めたお金で成り立つ組織である。事業収入を支える柱は言うまでもなく放送法だ。
「法律で契約しろとなっているからお金を徴収できる」。よく考えれば極めて珍妙なビジネスモデルである。極端な話、何の経営努力も必要なく、技術やアイデア、斬新な商品を生み出さなくても潤沢な資金が得られる仕組みだ。「NHKの経営はバカでもできる」と言われるゆえんはまさにここにある。
そのように法律を笠に着て蓄えた資金を、NHKは何に使っているのか。平成30年度財務諸表の財産目録一覧によれば、NHKの資産は現金預金・有価証券、固定資産、特定資産など計1兆1,940億円で、純資産は7,666億円。有価証券の内訳を見ると、国債や政府保証債、地方債、事業債などの購入に多額のお金を投じていることが分かる。国民から受信料を徴収し、かつ国会で予算の承認を受けている放送局が、いったい何の目的でこれらの証券を購入しているのか。きちんと説明すべきではないのかと指摘する声もある。
厳しい競争社会を生き抜くわけでもなく、事業リスクや赤字を怖れる必要もない。何度も言うように、「法律に書かれているから」莫大な収入が保証されている点を忘れてはならない。
多額の資産を抱え込み、余剰資金を証券購入に回すほど「儲かっている」NHKだが、受信料を引き下げて国民に還元する気はないようだ。それどころか、今後の徴収業務は輪をかけて行われる可能性がある。放送法改正でNHKのテレビ番組がインターネット視聴できることになり、ネット環境が整うだけで受信料の支払い義務が生じる。これにより、NHKの懐はますます潤い、受信料の徴収に泣く国民はさらに増えるだろう。
法令違反の組織に受信料を支払う必要なし?
N国党は、次のような問題を理由に受信料不払いを推奨している。
・職員の高すぎる給料
平成30年度のNHKの給与費は1,115億円。職員の数が約1万人だから、平均年収は1,000万円に上る。会社員の平均年収(約400万円)のおよそ2.5倍の額である。NHK職員の給与の妥当性については、過去国会でも取り上げられ、問題視する向きも少なくない。
・職員の犯罪率
NHKは、2004~2014年の10年間で、公表されているだけで70人以上の逮捕・処分者を出している。横領、着服、不正経理といった社内不祥事から、窃盗、わいせつなどの悪質犯罪、殺人、死体遺棄といった凶悪犯罪まで、内容もさることながら数の多さは深刻である。2015年以降も変わらず毎年数人の逮捕者を出し続け、2018年11月には「おはよう日本」のチーフプロデューザーが女性のスカート内を盗撮しようとして逮捕されるという事件が起きた。
・集金人の悪質行動
自宅で待ち伏せ、ドアを蹴とばす、大声を出す、払わないと高圧的な態度に出る……。など、NHK集金人の素行の悪さは世間に響き渡っている。彼らはNHK職員として1,000万円の年収を得ているわけでは当然なく、NHKから受信料の徴収を委託されノルマが課せられているため、どうしても強引なやり口に頼らざるを得ない事情があるようだ。違法・無法な行為で集金に走るNHKに受信料を払う必要はあるのか? というのがN国党の言い分だ。
・視聴者から要望がありながら、スクランブル放送を実施しない
スクランブル放送とは、料金を支払った者のみ番組視聴できるシステムである。WOWOWやスカパー!などを想像すると分かりやすい。「スクランブル放送を望む国民は8割以上」との調査結果があっても、NHKはスクランブル放送に関する情報を進んで提供しようとしない。受信料収入が圧倒的に減るからだろう。エゴに走る放送局のどこが「みなさまのNHK」なのか、N国の党は厳しく指弾した。
他にも、経費の使い道や報道姿勢などの問題を取り上げ、受信料不払い推奨の根拠としている。立花代表はYouTube動画などを使ってこれらの情報を拡散し、ネット層からの支持を取り付けることに成功した。
NHKが庶民の不満のはけ口に?
今度の参議院選挙では、「年金・社会保障」が大きな争点として浮上した。収入はなかなか増えず、明るい未来を描けない。そんな漠然とした不安を抱く人は若者を中心に多い。このような情勢下で何かと攻撃の的にされやすいが、大企業やキャリア公務員、富裕層といった上流層。NHKは放送業界の権威的存在であり、そこで働く職員は高年収の「勝ち組」たちだ。苦しい生活にあえぐ庶民からすれば、まさに敵として映ってもおかしくない。
NHK職員の給与に関しては、さまざまな見方があり、必ずしも高禄とは言い難い。というのも、NHKを含むテレビ局員は総じて高収入で、民放キー局はおおむね平均年収1,500万円ラインに達するほどだからだ。NHKだけが特別高いとは言えないのである。「給与を下げたら高待遇のライバル局に優秀な人材を取られてしまう」という理屈にも一理あるだろう。
ただし、選挙ではそのような公平な視点をもって投票に臨む人が果たしてどれくらいいるのか、率直な疑問として残る。N国党のようにわかりやすく「NHK職員の給料はみなさんの2.5倍ですよ! 犯罪者も多いのに、そんな組織に受信料なんか払う必要ありますか!」と訴えられたら、大きく雪崩を打ってしまうのが大衆というものだ。NHKというわかりやすい敵、ワンイシューに特化した巧みな戦略、庶民の間でくすぶる不満。これらの要素が有機的に結びついた結果、巻き起こったのがN国党旋風ではなかろうか。
放送法改正論議の呼び水に
選挙結果より、選挙後の議員たちの仕事ぶりこそ重要である。国民の信を受けた国会議員がどのように働き、どんな結果を残していくのかのウォッチが我々に求められる。立花議員に投票した人は、NHK改革やスクランブル放送の実現に期待しての行動だろう。ただのブームで終わらせないためにも、彼の国会活動がどのような形で展開するか、見守っていかなければならない。
結局のところ、NHK問題の本質は放送法にあるのではないか。ここにメスを入れることは、受信料の問題に限らず、テレビ局のあり方や報道の中立性、電波の取り扱い方まで波及する。昭和25年に制定された放送法だが、すでに今の時代にそぐわない条文もある。そもそも受信料は、GHQ主導の下、政府からの独立を目的に国民から広く徴収するためのシステムとして生まれた。つまり70年前の政治的遺物なのだ。
時代は進み、放送媒体をめぐる状況も大きく様変わりした。情報のアクセス環境の質は当時の比ではない。情報収集をNHKに頼らなければならない時代は、とっくの昔に終わっているのである。
時代ニーズの変化とともに企業法の改正や会社法の制定がなされたように、放送法も時代の流れには逆らえないはず。法律の庇護を受け続けた結果、組織全体が弛緩して国民からそっぽを向かれつつあるのが今のNHKと言えるのではないか。このまま改革もなしに立ち止まっていれば、いずれ政治の介入を許す日が来るかもしれない。
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