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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 桜井ユキから漂う“破滅のにおい”
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

NHK『だから私は推しました』遅咲き女優・桜井ユキから漂う“破滅のにおい”

ユマニテ公式サイトより

 NHKで土曜夜11時30分から放送されている『だから私は推しました』が不穏である。

 主人公の遠藤愛(桜井ユキ)はキラキラOL。インスタ映えする楽しい日々を過ごしていたが、海外赴任を機に恋人から「俺、お前の“いいね”の道具じゃないから」と別れを告げられる。傷心の中、落としたスマホを拾ってくれた男と会うためにたまたまライブハウスを訪れた愛は、地下アイドル・サニーサイドアップのハナ(白石聖)の姿に衝撃を受けて、彼女の“推し”となっていく。

「推し」とは応援しているアイドルのことで、「私の推しはハナ」といった使い方をする。この「推し」という言葉を、愛は「もうひとりの自分」だと解釈する。

 第1話は、愛が薄暗い部屋で、誰かに自分のことを話している場面が回想形式で挟み込まれるのだが、やがて、愛が誰かを階段から押して、ケガをさせたことがわかる。

 つまり、“推し”と“押し”を重ねたダブルミーニングなのだが、キラキラ女子だった愛がハナのために何らかの犯罪行為に手を染めてしまうというバッドエンドを予感させることで次回への関心を引く、見事なストーリーテリングである。

 脚本を担当したのは森下佳子。民放地上波では『JIN-仁-』や『義母と娘のブルース』(ともにTBS系)、NHKでは連続テレビ小説『ごちそうさん』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』を手掛けたヒットメーカーだ。

 本作が放送されている「よるドラ」枠は今年リニューアルされた新設枠で、新鋭の脚本家が、斬新な題材を扱うことで注目されているドラマ枠。

 本作の「地下アイドル」という題材も、この枠ならではのものだろう。すでにキャリアを確立した森下が脚本を担当することで、この枠ならではの攻めの姿勢が消えてしまうのではないかと当初は懸念していたが、演出とストーリーが見事に融合しており、「よるドラ」の先鋭性が森下にプラスの方向で作用し、かつてない問題作に仕上がっている。

 地下アイドルのディテールも、元・地下アイドルの姫乃たまがアイドル考証に入っていることもあって、むせ返るようなリアリティとなっており、暗い映像も地下アイドルの現場が持つ同好の士が寄り添っている狭くて濃い文化空間から漂う、居心地のよさと悪さを同時に体現している。

 サニーサイドアップの設定も作り込まれており、MVや動画をネット上で公開することでリアルなアイドル人気が盛り上がりを見せており、話題に事欠かないが、何より目が離せないのが、主人公を演じる桜井ユキから漂う破滅のにおいである。

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