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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 桜井ユキから漂う“破滅のにおい”
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

NHK『だから私は推しました』遅咲き女優・桜井ユキから漂う“破滅のにおい”

日本にはあまりいないタイプの女優?

 桜井は24歳デビューの遅咲き。2016年からは、安藤サクラ、門脇麦といった実力派女優が所属するユマニテに所属している。

 デビュー当初は目立たない役が多かったが、みるみる頭角を現し、2015年に『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』といった園子温監督の映画に立て続けに出演したことで、一気に露出が増えていく。テレビドラマの出演もじわじわと増えていき、16年に坂元裕二脚本の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)以降は『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』『絶対正義』、といったフジテレビ系のドラマに多数出演している。

 切れ長の目に、大きな口。サバサバしているが、一方で気だるい雰囲気を感じさせる桜井の風貌は、いかにも大人のできる女という感じ。20代後半で大人びた女性という立ち位置にうまくハマり、バイプレイヤーとしておいしい立ち位置を獲得できたのは、遅咲きゆえの幸運だったといえるだろう。

 そんな彼女の映画初主演作となったのが『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY -リミットオブスリーピングビューティ-』。監督は岡崎京子の漫画『チワワちゃん』を映画化した二宮健。桜井が演じるオリアアキは女優を目指しながら、サーカス団・オーロラでマジシャンの助手として働く29歳の女性。

 サーカスで催眠術にかかる演技を繰り返したことで、オリアは現実と妄想の区別がつかなくなっており、虚実入り混じった彼女の内面世界が延々と描写される。

 パズル的な映像が続くMVのようなおしゃれな作品なのだが、破滅に向かっていく桜井の危険な魅力が全開となっている。恋人役を演じた高橋一生とのラブシーンではヌードも披露し、文字通りすべてをさらけ出した演技を見せている。

 面白いのは、どんな暗いシーンを演じても、日本人特有の湿っぽさが桜井にはないこと。だから、心と体が破綻して悲劇的な結末を迎えても、カラッとしたカッコ良さがある。こういう女優は洋画や海外ドラマではよく見かけるが、日本では珍しいのではないかと思う。

 ドラマ初主演作となる『だから私は推しました』の遠藤愛も同様で、物語は明らかに破滅に向かっているのだが、ひどい状況になればなるほど愛のタフさが際立っていく。そんな愛が、真逆に見えるか弱い地下アイドルのハナに入れ込んでしまうことが本作の面白さだろう。今の桜井にしか演じられない、ハードボイルドな女である。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2019/08/09 14:00
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