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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.543

『カメ止め』に続く新風が映画界に吹き始めた!! 銭湯が舞台の殺人サスペンス『メランコリック』

従来の映画の枠に収まらない熱気

闇バイトで経済的に潤うようになった和彦は、高校時代の同級生・百合(吉田芽吹)と次第に仲良くなっていくが……。

 また、「銭湯が殺人&解体場所として利用される」という内容の本作は、普通の銭湯なら嫌がって撮影は断られていただろう。これまでの銭湯が舞台となった映画は、『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)をはじめ、ほのぼのしたものばかりだった。『メランコリック』の場合は、和彦と一緒に銭湯で働くバイト仲間・松本役とアクション指導を兼ねた磯崎義和が自宅近くのいい雰囲気の銭湯の店主に直接交渉したところ、「面白い!」と深夜から早朝に掛けてのロケ撮影を快諾。しかも、『メランコリック』のポスターを店に貼って、宣伝にも協力しているそうだ。ちなみにこの銭湯、インディーズ映画の傑作『ケンとカズ』(16)でもドラッグの取り引き現場の撮影に利用されている。

 物語の展開も従来の映画とは違った新鮮味が感じられる。前半はいわゆる奇妙な高額バイトをめぐる都市伝説系ミステリーとして進んでいくが、この奇妙なバイトに生き甲斐を見いだした和彦は、より深みにハマり、大きな決断を迫られる状況に陥る。スリリングなアクションシーンを交え、想定外なクライマックスへと雪崩れ込んでいく。果たして和彦と百合の運命は、そして裏の顔を持つ銭湯は営業を続けることができるのか?

 売れない俳優や監督たちが自分たちに付きまとうメランコリックさを吹き払うために作られた本作だが、従来の映画の枠に収まらない熱気がスクリーンからほとばしっている。この熱気、観客が感じているメランコリックさもきっと吹き飛ばしてくれるに違いない。街から消えつつある銭湯に新しい価値を見出した本作は、障害者の性をテーマにした片山慎三監督の『岬の兄妹』、繊細な映像で新しい宗教観を浮かび上がらせた奥山大史監督の『僕はイエス様が嫌い』に続く、令和元年を代表する新感覚インディーズ映画だといえるだろう。

(文=長野辰次)

『メランコリック』

監督・脚本・編集/田中征爾

出演/皆川暢二、磯崎義和、吉田芽吹、羽田真、矢田政伸、浜谷康幸、ステファニー・アリエン、大久保裕e太、山下ケイジ、新海ひろ子、蒲池貴範

配給/アップリンク、神宮前プロデュース、One Goose 8月3日よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、イオンシネマ港北ニュータウンほか全国順次公開中

(C)One Goos

https://www.uplink.co.jp/melancholic/

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最終更新:2019/08/09 20:00
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