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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 令和の時代に改めて見る『東京裁判』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.542

大川周明の被告席での奇行はすべて狂言だった? 4時間半の超弩級ドキュメンタリー『東京裁判』

1年で完成する予定が、5年がかりに

文官でただ一人死刑判決を受けた広田弘毅。公判中、妻が自殺を遂げたことで“悲劇の宰相”と呼ばれた。

 渾身作を完成させた小林監督は、96年に80歳で亡くなった。名作『怪談』(65)から小林作品の助監督となり、『東京裁判』では監督補佐を務め、小林監督と共同で脚本も担当した小笠原清氏に話を聞く機会を得たので紹介したい。

小笠原「フィルムに同録された英語でのやりとりを全て翻訳し、その内容を小さい9ポの文字四段組みでびっしりと書かれた日本語の速記録10巻と照合する作業は、とても骨が折れました。当初は映画を1年で完成する予定が、5年がかりになったんです。製作の講談社からは『思想的に偏らず、退屈しないものにしてくれ』とだけ言われ、その点では大変恵まれていました。小林監督は初めてのドキュメンタリーということで、多少の戸惑いはあったでしょう。でも、フィルム素材の内容を確認するうち、3つの時間軸、すなわち法廷での進行とそこに内在するドラマ、起訴状で取り上げられた当時の戦争や時局問題に関する資料映像、そして東京裁判進行当時の日本と国際社会の状況、これらを組み合わせる必要に迫られたようです。その結果、『東京裁判』は立体的な社会像として分かりやすくまとめることが可能になりました。

 脚本作業中、全体の構成と流れを見極めるため、部屋中にシーンごとの表題を並べて、小林監督は10分ほど無言でじっと眺め続けた後、“よし、これで『人間の條件』(59〜61)と繋がるね”とひと言呟いたことを覚えています。『人間の條件』6部作は小林監督の従軍体験が生かされた反戦映画です。『東京裁判』も戦争犠牲者たちへの鎮魂の祈りを込めたものであり、悲劇を繰り返さないための時代の証言でもあります。映像資料として、年々その価値は高まっているんじゃないでしょうか」

 敗戦国・日本は、ナチスドイツ同様に人道に対する罪、平和に対する罪が問われたが、どちらも戦後に作られた事後法である。また、人道に対する罪を日本に問うのなら、広島と長崎に原爆を投下した米国側の責任はどうなのだという異議が弁護団からも上がったが、すべて却下される形で裁判は進んだ。最初から結果ありきの形式的な裁判だったといわれる所以である。

小笠原「勝者が敗者を裁いた東京裁判は、不当であり無効だと強調する意見はよく聞きます。一理ではありますが、でもそれまでの軍事裁判の現実は、日本も含め勝者が敗者を制裁し、裁くことが通常的なことでした。成否の議論は議論として、東京裁判はこれで政治的決着がつけられたわけです。もし仮に、東京裁判を公正の名目でやり直せば、立憲君主たる昭和天皇の戦争責任が改めて問われることも想定せざるを得ません。東京裁判における天皇免責は、米国が天皇の存在を生かしたほうが日本の統治には有効であると、社会学的に冷静に分析したからでしょう。いずれにせよ、国民が知らなかった膨大な戦争の実態を明るみにした成果も含めて、政治劇“東京裁判”は日本が新しい時代を迎えるための通過儀礼として機能したようにも見えます。また、当時は、戦争はもうこりごりだという思いが勝者・敗者双方に共有されていた時期でもあり、東京裁判にはその効果が漠然と期待されていた側面もありましたね」

 ドキュメンタリー映画『東京裁判』には、「終」マークが付かないことでも知られている。悲惨さを極めた第二次大戦後も世界各地で国際紛争は続き、今なお本当の平和は見えてこない。小林監督からの無言のメッセージがラストカットには込められている。

(文=長野辰次)

『東京裁判 デジタルリマスター版』

ナレーター/佐藤慶 音楽/武満徹 脚本/小林正樹、小笠原清 監督/小林正樹

配給/太秦 8月3日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

※ブルーレイ&DVDはキングレコードより販売&発売中

(c)講談社2018

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最終更新:2019/08/02 18:00
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