吉本騒動と千鳥・大悟の”すべらない話”に見た、芸人のすごみ
#吉本興業 #千鳥 #大悟 #テレビ日記
千鳥・大悟「子どものころの、ちょっと切ない話でもいいですか?」
太田は宮迫らの会見を「見事な“すべらない話”だった」と評したけれど、そんなタイミングで、『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)が27日に放送された。面白い話はたくさんあったけれど、ここでは最もすべらない話をした者に贈られるMVS(Most Valuable すべらない話 )を受賞した、千鳥・大悟の親父の話を紹介したい。2本話されたうちの1本目である。
「子どものころの、ちょっと切ない話でもいいですか?」
そう前置きして、大悟は語り始めた。自分が生まれ育ったのは瀬戸内海の小さな島。そこではほとんどの家が採石業に携わっている。狭い島に同業者が集まっているため、誰が社長で誰が雇われているのか、誰が「金持ち」で誰が「金持ちじゃない」のかを、みんな明確にわかっている。自分の親父は雇われている側だった。子どものころ、自分が金持ちの家の子とケンカをすると、親父は自分を連れて頭を下げに回ったりもした。謝罪の帰り、軽トラの中で親父は自分に言って聞かせた。
「ワシは頭やったらなんぼでも下げちゃるけぇ。お前は好きなように生きろ」
そんな父親が18万円で船を買ってきた。その船に乗って、当時小学4年生だった自分は親父と一緒に釣りに出た。島の岩場と船をロープで結び、船を流しながらやる釣りだ。そのとき、クルーザーがやってきた。ロープがあるので親父は「アカンアカン!」とクルーザーに向けて警告する。クルーザーはギリギリで止まり、中から人が出てきた。親父より10~20歳ほど年下の、島の「金持ち」である。
「おいコラ! どこで釣りしとんねん、貧乏人コラ!」
これから聞きたくない話が始まる。子どもながらにとっさにそう勘づいた。が、船の上なので逃げ場がない。聞くしかない。自分に背中を向けた親父は、「調子乗っとんかコラ!」と年下に引き続きボロクソに言われている。親父、せめて何か言ってくれ。そう願うが、親父は背中を丸めて何も言わず、罵声を浴び続けている。そうこうするうちに、クルーザーは立ち去る。ここで自分は急に悟った。
「(親父が)振り返ったときに言うセリフで、なんかワシの人生決まりそうな気がしたんです」
自分の一生を左右するかもしれないタイミング。親父はここでなんと言ったのか。
「うちの親父、振り向いて、しわっくちゃな顔で、『お前はああなれよ』って言うたんです」
大悟が芸人になることを決めたきっかけになったというエピソード。「~って言うたんです」と大悟が話し終わると、松本をはじめ出演者たちは「切なっ!」と言いながら一斉に笑った。僕も笑った。
が、なぜこの話で笑ったのか、いまだによくわからない。こんなジャンル不明な話を「笑い」の文脈に乗せる大悟の技量。おそらくこの話の面白さは、僕の筆力の乏しさを差し引いても、文字だけでは十分に伝わらないはずだ。舞台に立った芸人は身体の重みを乗せた言葉で、テープが回っていなくとも、テープ以上のものを表現できてしまう。だから、芸人のパフォーマンスを記録したテープからテキストだけを抜き出すと、テープ以上のものは漏れ落ちてしまう。大悟が披露した親父の話もまた、そういう種類の“すべらない話”だった。
あの謝罪会見をきっかけに、舞台の上に立った芸人のすごみをあらためて感じた。ただ、だからこそ一層、ああいった謝罪会見ではない舞台で、芸人のすごみを感じたいと思った。吉本興業がこれからも芸人に自由な舞台を用意し続けられる会社であることを、視聴者として願う。
(文=飲用てれび<http://inyou.hatenablog.com/>)
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