取り調べで黙秘しても保釈可能 裁判前に依存症治療施設で教育! 薬物犯罪で逮捕された後の戦術
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そして、この保釈中に裁判で戦うための準備を整えることになる。
「薬物事犯における裁判の戦い方は実はワンパターンで、基本は先ほど述べたように薬物依存症を治療する施設に通所・入所してもらうことです。ただ、これは薬物使用の容疑を認めた上で治療を受けることになるので、あくまで執行猶予を狙う戦略。保釈決定から第1回公判までは約2カ月ありますので、その間に治療プログラムに参加し、可能であれば医師に『真摯に治療に取り組んでいて、依存症を克服しようという気概がうかがえる』といった旨の意見書も書いてもらう。それと並行して、家族や恋人、信頼できる友人などに『もし執行猶予が付いたら、私が毎回病院に付き添います』と一筆書いてもらう。被告人を支えてくれる人の有無は裁判所もよく見るので、近親者の協力を得ることも大事です」(同)
しかしながら、薬物依存症の治療プログラムを受けるということは、薬物への依存を認めることになる。この点は裁判で不利にはならないのか?
「正味の話、依存性はほぼ認められる傾向なので、量刑にはあまり関係しないと考えています。例えば1回しか覚せい剤を打ったことがない人の場合、依存性があるかないかと問われれば『1回だけなら依存性はないのでは?』と答える人も多いでしょう。でも、裁判所は『回数は関係ない。薬物をやりたいと思った時点で依存している』という考え方をするので、そこで争っても意味がない」(A氏)
それよりも、注目すべきは刑法の目的そのものだとA氏は言う。
「刑法が人権を侵害してまで罰を与える理由は2つあります。ひとつは犯した罪を償わせるため。もうひとつは、犯罪を繰り返さぬよう刑務所に入れて“教育”するためです。この教育に相当するのが依存症の治療であって、そこをクリアできれば刑務所に行く理由がひとつ消えるわけです。治療以外にも、NA(ナルコティクス・アノニマス)という自助会に参加させてもいい。ここには被告人の想像を超える悲惨な薬物依存症患者がたくさん来るので、たいていの人は『ショックを受けた。もうクスリはやめる』と言うんです。これも教育が施されているというアピールになります」(同)
ちなみに、治療施設にはどのようなものがあるのか?
「東京都であれば、小平市のNCNP病院(国立精神・神経医療研究センター)に薬物依存症外来があり、ここは絶対に外せません。というのも、現在の刑務所内で行われている薬物依存症の治療プログラムをつくっているのが、このNCNPだからです。要するに、刑務所で受けるプログラムを前倒しで受けているのだから、刑務所での教育は必要ないというロジックが成立する。ただ、小平は都心からは少し遠いし、週1回の治療を半年かけて行うというのが基本プログラム。仮に私が裁判官だったら、『週1回じゃ足りないよね?』と思うんですよね。よって、週1で小平に通わせつつ、23区内のクリニックなど、より近場にある施設に毎日のように通わせます」(同)
NCNPで治療の質を担保し、近場のクリニックで量を稼ぐというわけだ。
「それプラス、可能であれば夜は自助会にも出る。そうすることで、裁判所に対して『これ以上の教育を刑務所で施せますか?』という問いかけにもなります。ただ、初犯の人であれば、NCNPだけでも十分でしょう」(同)
また、16年に「刑の一部執行猶予制度」が施行されたことにも注目すべきである。
「同制度は見かけ上は仮釈放に近くて、要は、刑務所には入ってもらうけれど、刑期より早めに出してあげるんです。なぜこの制度ができたかというと、特に薬物依存は、薬物がある社会で依存を克服しないと、本当に克服したことにならないから。つまり、刑務所内では薬物が手に入らないからやらないだけで、やろうと思えばやれる環境でやめられなければ意味がない。だから、早めに出所させて様子を見るんです。これは、薬物依存からの回復に向けた活動の重要性を改めて法律が認めたことにほかならない」(同)
よって、今後もシャバでの“教育”は、薬物事件の裁判では重視され続けるというのがA氏の見立てだ。
ここまで見てきたように、逮捕されてからの戦術にはいくつかのセオリーがある。転ばぬ先の杖として、知っておいて損はないはずだ。
(月刊サイゾー6月号『令和時代の(新)タブー』より)
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