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有名であることで 稼げるビジネス【1】

【海外のインフルエンサー・マーケティング最前線】山火事に便乗してプロモーション? セレブたちがSNSに広告垂れ流し

大量のインフルエンサーを広告に起用したが、大失敗に終わった「Fyre Festival」のドキュメンタリー番組を、NetflixとHuluは同時期に配信開始していた。

――海外では企業のデジタルマーケティングにSNSで話題のインフルエンサーを起用する「インフルエンサー・マーケティング」が巨大市場になりつつある。一方で、倫理観の欠如から、騒ぎに乗じたり巻き込まれたりで炎上し、“フォロワー”も“広告主”も騙すようなインフルエンサーが出現し始めていて……。

 大量のインフルエンサーを広告に起用したが、大失敗に終わった「Fyre Festival」のドキュメンタリー番組を、NetflixとHuluは同時期に配信開始していた。

 インスタグラムやYouTubeで人気を集め、世間に与える影響力が大きいインフルエンサー。そんなSNS上で多くのフォロワー数を持つ彼らに、企業が商品の宣伝やPRを依頼する「インフルエンサー・マーケティング」が、日本でも勢いづいている。デジタル産業の市場調査を行う「デジタルインファクト」によると、国内市場規模は2018年時点ですでに219億円となっており、10年後には933億円まで膨れ上がるとされている。

「日本でも」と述べたが、欧米ではすでにケタ外れの市場となっており、インフルエンサー・マーケティングの代理店「mediakix」の概算によると、昨年の世界市場の規模は3000~6000億円。今後5年間で1兆円にまで成長するという予測もある。

 インフルエンサーはYouTuberなどの「有名な素人」程度の者から、ハリウッド映画に主演するような世界的なセレブまで幅広い人種をカバーし、00年代生まれの物心がついたときからインターネットが当たり前のように存在する「デジタルネイティブ」な世代から多大なる人気を博している。

 一方でインフルエンサーを起用したマーケティングは、時に彼らの言動をスポンサーがコントロールできないため、彼らの不適切な言動によって炎上し、製品のブランドイメージに傷がつくこともあり、また、誇大広告や詐欺まがいの商品をフォロワーたちに拡散してしまう危険性もはらんでいる。

 そんな中でも象徴的な事件とされるのが17年に起きた「Fyre Festival」騒動だろう。かつて、麻薬王のパブロ・エスコバルが所有していたバハマの離島でメジャー・レイザーやG.O.O.D. Musicに所属する豪華アーティストらが出演する音楽フェスを開催すると謳い、ケンダル・ジェンナー(インスタグラムのフォロワー数約1億人/以下同)やベラ・ハディッド(約2400万人)、エミリー・ラタコウスキー(約2200万人)、ジャスティン・ビーバーの妻ヘイリー・ビーバー(約1900万人)といった、セレブ系インフルエンサーたちを惜しみなく起用。カリブの孤島で集まり、2週間に渡って海辺でお酒を飲みながらヨットとシェフまで付いてくる高級ヴィラに宿泊して、贅沢な時間を過ごす――。そんな触れ込みでインフルエンサーたちが自身のインスタグラムで「#fyrefestival」と、ハッシュタグを付けて写真を投稿したところ、17万~132万円の高額チケットにも関わらず、48時間以内に95%も売れたという。

 しかし、いざ参加者たちが島に到着すると、そこには豪華なヴィラなんてものはなく、建設現場のようなフェス会場には災害時に使うテントが水浸しで置かれているという、劣悪な環境だった。しかも、出演アーティストは誰ひとりとしておらず、暴動も発生したため、フェスは当日になって中止。その後、主催者は詐欺罪で逮捕されたが、その顛末はNetflixとHuluでドキュメンタリー番組として配信された(Huluは終了)。

 さらに、主催者たちだけではなく、SNSで「虚構のフェス」を拡散したインフルエンサーたちも問題視され、彼女たちも訴訟を起こされてしまった。その結果、この市場のことをフォロワーを騙す「情弱ビジネス」だと揶揄する声も上がっている。そこで本稿では、海外におけるインフルエンサー・マーケティングの最前線に迫りたい。

■スポンサード投稿1回で1億円稼ぐインフルエンサー

 まず、インフルエンサー・マーケティングとは、ユーザーとの距離感が近いSNSやYouTubeの人気者に、企業がアプローチし、彼らに自社製品をSNSで宣伝してもらって、インフルエンサーは企業から報酬を受け取るというもの。例えばインスタグラムの場合は「#ad」や「#PR」などのハッシュタグが付いているものが、スポンサード投稿だ。

 この市場はいつ頃から始まったのだろうか? 『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著作を持つPRストラテジスト・本田哲也氏に話を聞いた。

「インフルエンサー・マーケティングや口コミ・マーケティングが、米国で始まったのは05年頃。当時のインフルエンサーと呼ばれる人は主にブロガーでしたが、その中でも有名な人々は商品をPRするというよりも、テック関連の情報発信をするような、シリコンバレーにいるテック系のジャーナリストのほうが多かった。一方で、P&Gの『トレモア』というプログラムなど、商品をPRするインフルエンサー・マーケティングの原型も出現しました」

「トレモア」は、ティーンのインフルエンサーにゲームや音楽といったクライアントの商品を提供し、それを友人に広めてもらい対価を得るプログラムだ。今でこそ、日本でもこの市場が活況になったが、広告文化の違いもあって、根付くまでにはだいぶ時間がかかった。

「日本でも06年頃からブログやmixiブームが起き、インフルエンサーが登場するようになりました。私が設立したブルーカレント・ジャパンや、サイバー・バズなど、インフルエンサーを扱う企業が登場するのもこの年です。しかし、インフルエンサーは当時の日本の広告文化とは相容れませんでした。PR文化が根付いている米国と違って、日本の広告は媒体売りですし、インフルエンサーと聞いても広告のモデルくらいでしか使い道がないと思われていたのです。そうしているうちに08年のリーマンショックが起きてインフルエンサーのブームは沈静化。流れが持ち直すのは10年代に入ってスマホが普及し、インスタグラムなどのSNSが登場してから。ここでようやくインフルエンサーが活躍するインフラが整えられた、といった感じですね」(同)

 現在、インフルエンサーと呼ばれる人々は冒頭でも述べたように素人からセレブまで幅広い。ただ、インフルエンサー・マーケティングに限っていえば、前述のように企業から報酬を支払われる場合は、スポンサード投稿であることを明示しなければならないため、日本ではYouTuberなどのスポンサード投稿は多くても、かつてのステマ騒動が尾を引いてるのか、芸能人によるものはあまり目立っていない。

 その一方で、米国の場合はYouTuberだけではなく、ハリウッド映画のスター俳優であるドウェイン・ジョンソン(約14億人)、カーダシアン家のケンダル&カイリー・ジェンナー(約13億人)姉妹や、2世モデル姉妹のベラ&ジジ・ハディッド(約4700万人)が、インフルエンサーとして容赦なくスポンサード投稿で稼いでいる。米国のポップカルチャーに詳しいライターの辰巳JUNK氏は、こう語る。

「今ではセレーナ・ゴメス(約15億人)やクリスティアーノ・ロナウド(約16億人)など、多くのスーパースターがスポンサード投稿を行っているとされていますが、その中でも話題性があるのはイットモデル(ファッション界以外でも認知されているモデル)たちですよね。例えば、Fyreのプロモーションにも参加していたエミリー・ラタコウスキーはインフルエンサー業をオープンにしており、『収入の大半がスポンサード投稿。この稼ぎがあるから映画で役を選ぶことができる』と、語っています。こうしたイットモデルたちが支持されているのは、やっぱり彼女たちが、『多くの人々の憧れ』だからなんですよね。彼女たちを取り巻く『イケてる商品や体験』をフォロワーたちは渇望しているんです」

 ちなみに、インスタグラムの予約投稿ツール「Hopper HQ」はSNSに投稿されるインフルエンサーのギャランティ・ランキングを発表しているが、昨年もっとも高額だったのはカイリー・ジェンナーで、その額は一投稿あたり1億円と推測している。今や、セレブたちもインスタグラム投稿で巨額の富を得る時代となっているのだ。

■山火事に便乗してPR! 不謹慎インフルエンサー

 他方で、デジタルマーケティングに詳しいウェブ編集者A氏によると、一般人ながらインスタグラムのフォロワー数が10万人前後のいわば「有名な素人」層である“マイクロ・インフルエンサー”たちが、今は注目されていると語る。

「従来のイメージだと、広告はどんなものでも『いかに広い範囲に告知できるか』という、リーチが目的と思われるでしょう。ですが、マイクロ・インフルエンサーや、それよりもっとフォロワー数の少ないナノ・インフルエンサーを利用する広告主は、リーチだけを目的にしているわけではありません。インフルエンサーが活躍するプラットフォーム、特にフェイスブックやインスタグラムでは、アルゴリズムによってユーザーと関係値が高い人物の投稿が優先的に表示されます。そのため、それぞれの興味に特化した分野の商品のPRでは、(特にその商品と関連のない)セレブの投稿よりも確実に表示され、相互作用が高まる。つまり、リーチよりも、いわゆるエンゲージメントを重要視しているのです」

 つまり、宣伝したい商材によっては、誰もが知っている有名人よりも、特定の層で話題のインフルエンサーを起用したほうが、ターゲティングしやすいということだ。

 また、特定の層の有名人とはいえ、マイクロ・インフルエンサーから大成することもある。例えばジャスティン・ビーバー(約1億人)も、当初は無名のYouTuberだった。今、米国にはジャスティンのようにSNSから注目を集めて、セレブの仲間入りを果たすインフルエンサーも雨後の筍のごとく登場している。

 だが、数が多いだけにさまざまな人間がいるのもまた事実。いまだにフォロワー数をカネで水増しするインフルエンサーの存在が問題視されているが、そんなことはまだかわいいほうで、中には詐欺まがいの行為を働く者もいる。

 次記事でもいくつか紹介しているが、海外で起こったマイクロ・インフルエンサーの騒動を追ってみると、「私の美容法教えます」や「絶対に痩せるフィットネス」といった情報商材を2万5000~5万円程度で販売し、「効果がない」「音沙汰がない」などとクレームが続出して炎上するといったものが多い。

 しかし、こうした騒動の中でも批判が多かったのは、昨秋発生した「カリフォルニア州の山火事」をインフルエンサーたちが自身の宣伝に使ったことだろう。

 糾弾されたインフルエンサーたちは、インスタグラムのユーザーが火事に関する被害状況や現地の写真を求め、ハッシュタグ検索することを見越して「#californiafire」や「#californialove」といった山火事に関するハッシュタグに、山火事と関係のない海岸で笑顔で飛び跳ねていたり、全裸で佇む自らの写真を形式的な追悼コメントにくっ付けて商品のプロモーション投稿をしていたのだ。こうした行為は話題になっている事柄に関連する言葉を、自らの利益のために利用する「keyword squatting(キーワード無断占拠)」だと非難された。

 このような形で炎上したインフルエンサーのほとんどは謝罪に追い込まれ、時には自ら謹慎や引退といった代償を支払っているが、中には炎上すればするほどフォロワーを増やし、結果としてスポンサード投稿のギャラが上がるという、焼け太りインフルエンサーも存在する。

「Fyreに関わったモデルたちは騒動当時、総じて炎上しましたが、むしろ今はインフルエンサー・マーケティングの市場拡大に伴い、彼女たちのスポンサード料金は増加しています。例えば、その知名度ゆえに騒動時、もっともバッシングされたケンダル・ジェンナーのスポンサード投稿の推定料金は17年に4000万円だったのが、昨年は5500万円に増えています」(辰巳氏)

 ちなみに、ケンダルはFyreに関するPRをインスタグラムに1回投稿するごとに、2700万円も支払われたとも報じられている。もはや、「やったもん勝ち」「炎上商法上等」というような市場になりつつあるようにも思えるが、前出の本田氏はこう語る。

「皮肉なことですが、Fyreはインフルエンサー・マーケティングの可能性と影響力というのを証明したかもしれませんね。結果的には騙されましたが、アッという間に人が動いた。また、悪質なインフルエンサーでも儲かってしまうという仕組みがある以上、こういった人間はいなくならないでしょうし、これからは倫理観のあるインフルエンサーと、そうでないもので二極化していくと思います。消費者にも『インフルエンサーの背後では企業が動いているケースもある』という、情弱というよりも、新しいタイプのリテラシーが求められるようになったと思います」

 そのため、業界自体は今、健全化のためにあらゆる取り組みを進めている。例えば、昨年フランスで行われた「カンヌライオンズ」という広告祭では、ユニリーバの最高マーケティング責任者が「フォロワーをカネで購入するようなインフルエンサーは起用しない」と宣言し、「フォロワーを水増ししているインフルエンサーたちを、根絶するため積極的に取り締まる」とも、述べた。

 それと連動するように、米国の「Mavrck(マーベリック)」というインフルエンサー・マーケティング会社は、インフルエンサーのフォロワーやエンゲージメントの購入履歴に基づき、詐欺行為のリスクを高、中、低の3段階で定義するシステムを、昨夏にリリースしている。このような動きは今、世界各国で起きているという。

「国内でもTHECOO株式会社などではインフルエンサーの評価・分析ツールを提供しています。こうした施策やサービスが広く普及すれば、今後は自浄作用が働いて(倫理のないインフルエンサーや企業の)淘汰は進むと思います」(A氏)

 ちなみに本田氏によると「コンプライアンス研修をインフルエンサーに対して行う事業者も出始めた」とのこと。このような取り組みも行われているため、今後、インフルエンサー・マーケティングが情弱ビジネスではなく、まっとうな市場になる可能性は高いかもしれない。とはいえ、お騒がせインフルエンサーたちがいなくなるのも、それはそれで寂しい。(月刊サイゾー5月号『情弱ビジネスのカラクリ』より)

最終更新:2019/07/19 09:58
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