『脱力タイムズ』から考える、”番宣”俳優の正しい取り扱い方
#佐藤健 #安藤サクラ #テレビ日記 #中村倫也
志田未来「月曜9時からのドラマに出演させてもらいます」
バラエティ番組に番宣で出演する俳優は、いまや笑いを生む重要なファクターになっている。そして、多くのバラエティ番組では常時ゲストを迎え、何かしらの番宣をやっている。
とはいえ、番宣それ自体は、バラエティ番組の中では余計な部分かもしれない。なくても番組は成立するかもしれない。
他方で、番宣自体を番組の笑いに欠かせない要素として組み込んでいるバラエティもある。たとえば、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)である。12日のゲストは志田未来。月9『監察医 朝顔』の番宣での出演だった。
この日の番組のテーマは、コミュニケーション力を上げる会話術。解説員の元TBSアナウンサー・吉川美代子によるレッスンを踏まえた上で、初対面の相手と対談する実践コーナーが始まった。対談のために用意されたセットに、芸人ゲストのダイアン・津田が向かう。対談相手として登場したのは、コワモテの反社会的な感じのお兄さん2人組である。
津田「ご職業は?」
男性 「あ?」
冒頭からそんな感じで始まった対談は、終始お兄さんの側がケンカ腰。コワモテを前に、汗をかきながら会話を成立させようと奮闘する津田が笑いを誘う。もちろん、『脱力タイムズ』の視聴者ならおわかりのように、これらはすべて津田以外には渡されている台本通りのやりとりである。
続けて、同じセットに志田が向かう。対談相手として出てきたのは、先ほどと同じコワモテのお兄さんたち。この対談も成立せずに終わるのか。そう匂わせて始まった会話だが、徐々に男性のトーンは柔和になる。
志田「普段は何されてますか?」
男性「そうだなぁ……パチンコ」
志田「パチンコですか。勝ちますか?」
男性「まぁまぁだな。ねーちゃん行かねーの? パチンコ」
志田「ちょっと仕事が忙しくて、行ったことはないです」
男性「何やってる人?」
志田「一応、女優をやってます」
男性「へー、女優。何に出てんの?」
志田「えっと、月曜9時からのドラマに出演させてもらいます」
男性「なんてドラマ?」
志田「『監察医 朝顔』というドラマです」
会話が成立しないと思われたコワモテのお兄さんが、流れるようなコミュニケーションで俳優を番宣へと誘導する展開。もちろんすべて台本通りなわけだけれど、一部始終をスタジオで見ていた津田も叫ぶ。
「巧妙な番宣!」
志田がドラマの内容を説明し始めると、コワモテのお兄さんはドスの利いた声で尋ねた。
「見どころとかあんの?」
バラエティ番組に俳優が番宣で出演する際は、その俳優の素顔やプライベートが、「意外な一面」と共に披露されることが多い。なんだか番宣は、「意外な一面」と引き換えにされるご褒美のようにも見える。番組冒頭から番宣を始めようとする俳優に、周囲の芸人らが「まだまだ!」とストップをかけるという展開もおなじみだ。言ってみれば、茶番だが。
けれど『脱力タイムズ』は、そんなよくある展開とは反対に、俳優に台本通りの演技をさせる。もちろん、これはこれで茶番なわけだけれど、意図的に仕組まれた茶番であることをすべての前提にしている分、そこから意図せずあふれ出てしまっているように見える部分(芸人のリアクションにこらえきれずに笑ってしまうところとか、逆にまったく動じず真顔を貫くところとか)に、俳優の「素」を感じたりもする。何より、番組が用意する毎回異なる番宣の仕掛け、その巧妙さにはいつも驚かされる。
バラエティ番組の中で、余計な部分であるようにも感じる番宣。そんな番宣それ自体に「見どころとかあんの?」と問われたら、僕は迷わず『脱力タイムズ』を番宣しようと思う。
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