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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 橋本愛の“ぎこちなさ”という武器
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

橋本愛の“ぎこちなさ”という武器

2010年代前半の邦画界は橋本愛の時代だった

 橋本は現在23歳。『長閑の庭』の元子と同じ年だが、まだ23歳なのかと思うのは、女優としてのキャリアがあまりにも濃密だったからだろう。2010年代前半の邦画界は、間違いなく橋本愛の時代だった。

 14歳の時に中島哲也監督の映画『告白』に出演した橋本は、クラス委員長の北村美月を好演。ショートボブの髪形と鋭い眼光が印象に残るビジュアルで注目を集める。

 その後、『Another アナザー』『桐島、部活やめるってよ』といった、さまざまな映画に出演。暗い青春映画に出演することが多く、内気な同級生がひそかに思いを寄せる、どこか翳のある神秘的な美少女を演じることが多かった。

『リング』シリーズで有名な黒髪の幽霊・貞子の役も『貞子3D』で演じており、『告白』から3年弱の間に 、橋本は青春映画に欠かせないダークなポップ・アイコンとして、2010年代前半を象徴する女優となった。

 これは好意的に捉えるならば、わずか数年でハマり役に出会うという幸運をつかんだといえる。しかし、ネガティブに考えると、早くもイメージが固まってしまったともいえる。

 おそらく今も、橋本を翳のある美少女のイメージで捉えている人は少なくないだろう。当時の橋本はいい意味でも悪い意味でも人形的なポップ・アイコンであり、このまま似たような役を演じ続けると、簡単に消費され、やがてすり切れてしまうのではないかというはかなさを抱えていた。

 転機となったのは宮藤官九郎・脚本のNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』だろう。彼女が演じた足立ユイは、岩手県の田舎で暮らす女子高生で、寡黙ではかなさのある雰囲気は『告白』以降の路線を踏襲しているように見えた。だが、実は彼女は「アイドル」を目指しており、高校を卒業したら東京に行きたいと考える、芸能界に憧れる今どきの女の子だ。主人公の天野アキ(能年玲奈/現・のん )と共に一度は上京しようとしたユイだったが、両親が倒れたことで計画は頓挫。田舎でくすぶっているユイは、どんどんやさぐれていくのだが、そんなユイを、宮藤は愛嬌のある人間としてコミカルに描いた。

 ユイを演じたことで、橋本の芝居にはユーモアが生まれた。『あまちゃん』の後に出演したミステリードラマ『ハードナッツ!~数学girlの恋する事件簿~』(NHK BSプレミアム)で演じた大学生・難波くるみは、数学理論を駆使した推理力は天才的だが、行動がいちいち抜けているという女性。

『長閑の庭』にも通じる不器用なヒロインだが、その姿には愛嬌があり、本作でコメディエンヌとしての才能が一気に開花した。

 20歳以降の橋本は、人間味のある落ち着いた役を演じる機会が増えている。立っているだけで絵になるオブジェ的な存在感は相変わらずだが、動いた時に生まれる妙なぎこちなさが、元子のような女性を演じた時にはうまくハマッている。

 演技におけるぎこちなさや違和感は、決してマイナスではない。むしろ不器用にしか生きられない女性を演じる際には圧倒的な武器になるのだと、橋本の芝居は教えてくれる。 

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2019/07/03 14:00
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