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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 香取慎吾が“ギャンブル依存症”?
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.536

香取慎吾が“ギャンブル依存症”へと墜ちていく!? 石巻を舞台にしたドン底からの再生劇『凪待ち』

”心優しいダメ男”は、もうひとりの香取慎吾

他所者である郁男(香取)に対し、地元暮らしの小野寺(リリー・フランキー)は常に優しかったが……。

 勝てば負けるまで賭け続け、負ければ負けた分を取り戻そうとさらに賭け金をはたいてしまうのがギャンブルの恐ろしさだ。底なし沼のように、どんどんと郁男はのめり込んでいく。郁男がギャンブルにハマッている間に、恐ろしい事件が起きる。それでも郁男はノミ屋通いをやめられない。これが最後と自分に言い聞かせながらも、手を出しては絶対にいけないお金まで使い込んでしまう。周囲の期待を次々と裏切ってしまう郁男だった。

 郁男は優しい心の持ち主だが、自分にも甘い。とことん甘い。自分はダメ人間なんだということに甘えている。亜弓や、亜弓の無口な父親・勝美(吉澤健)が救いの手を差し伸べると、一方的に断ち切ろうとしてしまう。ダメ人間のままでいたほうが、ずっと気楽だからだ。幸せを掴み取る勇気がなく、ますます自暴自棄に陥っていく。

 斎藤工主演作『麻雀放浪記2020』ではギャンブルに生き甲斐を見いだすタフな主人公を描いた白石監督が、『凪待ち』ではギャンブルで身を崩す弱い男を主人公としている。郁男がギャンブル依存症を克服しようとしながらも、何度も何度も失敗してしまう姿を白石監督は執拗に描く。124分という映画の尺の中で乗り越えられるほど、この依存症は甘くない。レースがクライマックスを迎え、打鐘(ジャン)が鳴る瞬間に体の芯が熱くなることを郁男はどうにも抑えることができない。

 郁男はどうしようもないダメ人間だが、これは香取に人間として、男優としての奥行きがあるから成り立つキャラクターだろう。タレントとして陽性の魅力を放つ一方、プライベートは明かさないことでも知られている。42年間生きてきた中で、ずっと胸の奥に収めてきた葛藤や苦悩がキャラクターを通して滲み出ている。ギャンブルに打ち込んでいる間だけはすべてを忘れて熱くなれる郁男は、もうひとりのリアルな香取ではないだろうか。

 亜弓の娘・美波を演じた恒松祐里は、黒沢清監督のSF映画『散歩する侵略者』(17)に続く好演。血の繋がりのない“父親もどき”である郁男への愛憎をくっきりと演じ分けてみせる。美波の祖父にあたる勝美役の吉澤健もすごくいい。吉澤は白石監督の師匠・若松孝二監督作品の常連だった超ベテラン俳優だ。末期がんに冒されながらも、船に乗りつづける老漁師を寡黙に演じてみせる。

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