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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.535

久々に再会した家族はホームレスになっていた!? セレブ作家の苦い実話もの『ガラスの城の約束』

最後まで憎み切れない毒親

恋人のデヴィッド(マックス・グリーンフィールド)は父娘を仲直りさせようとするも、父娘には他人には分からない葛藤があった。

 流行作家として成功を収めたジャネットは、疎遠となっていた両親と改めて再会し、経済的支援をすることを申し出る。ホームレス生活から脱して、まっとうな暮らしをして欲しいと。だが、娘のそんな願いは、あっさりと拒絶される。父レックスも母ローズマリーも決して落ちぶれてホームレスになったわけではなく、より自由な生活を求めて、今のライフスタイルに落ち着いたのだと言い張る。レックスは逆に、今のジャネットの生活のほうが欺瞞だらけのものではないかと反論する。結婚を控えた恋人デヴィッドが頑固者同士のこの親子を仲直りさせようとするが、火に油を注ぐ結果だった。親子間には、どうしようもない大きな断絶が横たわっていた。

 タイトルにある“ガラスの城”とは、若い頃の父レックスが、子どもたちに設計図を描いてみせた理想の住宅のこと。太陽光パネルを備え、自家発電で冷暖房完備&独自の浄水装置付き。全面ガラス張りの眺めのいい夢の邸宅だった。結局、この夢の城は建てられることなく、建設予定地はゴミ捨て場となってしまう。ガラスの城を建て、家族みんなで暮らそうという約束を果たせなかったことを老いた父は詫びるが、ジャネットには責めることができない。父といちばん仲のよかったジャネットは、父と夢を共有し、その夢の中ですでにガラスの城は建っていたのだ。夢の中で父が建てた城は、NYのどんな高級マンションよりも素敵だった。

 毒親と呼んでいい父レックスのことを、ジャネットは最後まで憎み切れない。家族を否定することは、自分自身のアイデンティティーも否定することになるからだ。世間一般とはずいぶん異なるおかしな家族で、その後はバラバラとなってしまった。それでもジャネットは、父レックスとガラスの城を夢見ていた日々のことを懐かしく思う。それは父が娘に残した一番の財産だった。

(文=長野辰次)

『ガラスの城の約束』

原作/ジャネット・ウォールズ 脚本/デスティン・ダニエル・クレットン、アンドリュー・ラナム 監督/デスティン・ダニエル・クレットン

出演/ブリー・ラーソン、ウディ・ハレルソン、ナオミ・ワッツ、マックス・グリーンフィールド、セーラ・スヌーク、ジョシュ・カラス、ブリジット・ランディ=ペイン

配給/ファントム・フィルム 6月14日(金)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

http://www.phantom-film.com/garasunoshiro

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最終更新:2019/06/15 17:50
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