この主人公に共感した人は、かなりヤバいかも!? サイコパスコメディ『ハウス・ジャック・ビルト』
#パンドラ映画館
常識では考えられないことをやらかすのが人間の本質
共感できないままクライマックスを迎えることになるが、ひとつだけ言えることは、ひとりの人間の頭の中で理解できる世界はとても狭いということ。自分が共感できる世界、「いいね」を押したくなる世界よりも現実の世界はもっと広く、他人が妄想する世界はさらにもっと広い。「いいね」を押したくなる世界しか見ないことは、世界のほとんどを見ていないことに等しい。自分が今まで使っていた物差しだけでは、この世界を計ることは到底不可能だ。
トリアー監督は2011年、『メランコリア』がカンヌ映画祭で上映された際に「ヒトラーは善人とは言えないが、僕は少しだけシンパシーを感じるんだ」と記者会見で冗談まじりに口走り、カンヌ映画祭から追放処分となっていた。本作は8年ぶりのカンヌ復帰作だ。ジャックをあの世へと案内するヴァージ役のブルーノ・ガンツは今年2月に亡くなったドイツの名優。彼の代表作には『ベルリン・天使の詩』(87)と並んで、アドルフ・ヒトラーを演じた『ヒトラー 最後の12日間』(04)がある。ヒトラーは罪の意識を感じることなく、600万人ものユダヤ人や障害者たちを粛正した。トリアー監督に言わせれば、常識では考えられない、とんでもないことをやらかすのが人間の本質だということか。
理解不能なジャックの言動だが、第1の殺人事件の犠牲者となった高慢ちきな中年女性は、ジャックでなくてもムカつくはずだ。また、第2の殺人事件の後、ジャックは強迫観念に駆られて執拗に現場を清掃するが、強迫観念に囚われることは多くの人が経験しているに違いない。もしかすると、1人ひとりの人間の中に、ジャックのようなサイコパス気質の芽が潜んでいるのかもしれない。カンヌ映画祭での本作の上映中、途中退場者が続出したそうだが、観客の中には自分の中に小さなジャック、リトル・ジャックの存在を感じ、逃げるように席を立った人もいるのでないだろうか。トリアー監督が放つブラックジョークの世界、あなたは最後まで笑って見ていられる?
(文=長野辰次)
『ハウス・ジャック・ビルト』
監督・脚本/ラース・フォン・トリアー
出演/マット・ディロン、ブルーノ・ガンツ、ユマ・サーマン、シオバン・ファロン、ソフィー・グローベール、ライリー・キーオ、ジェレミー・デイビス
配給/クロックワークス、アルバトロス・フィルム R18+ 完全ノーカット版
新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、T・ジョイPRINCE品川、横浜ブルク13、川崎チネチッタほか全国ロードショー
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