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【wezzy】

読売テレビ“人権侵害ロケ事件”は氷山の一角! 人権意識に欠ける関西ローカル番組の実態とは?

 関西のローカル番組『かんさい情報ネットten.』(読売テレビ)で5月10日に放送した“外見では男性か女性かわからない一般人の性別を突き止める”といった企画が、全国的に物議を醸した。

 この内容を真っ先に批判し、「許しがたい人権感覚の欠如」などと激怒したのは、生放送に出演中であったレギュラーコメンテーターで作家の若一光司氏である。その激怒する様が放送された直後からSNSで非難する声が上がり、瞬く間に炎上の波は広がった。非難の波はおさまることなく、最終的に他局のテレビや新聞などの各種メディアでも取り上げられる事態にまで発展したのだ。

 しかし、関西を拠点に活動する構成作家のT氏は「この程度の人権侵害に抵触する企画は、特に関西ローカルでは日常茶飯事です」と言い切る。関西のテレビといえば、お笑い番組が大半といったイメージだが、T氏は「人権感覚が疑わしい番組が少なくない」と感じているという。

在阪テレビマンたちが抱える、時代遅れの制作意識が元凶
 業種を問わず大半の企業がそうであるように、コストが下がれば下がるほど品質は低下していくもの。それはテレビ業界においても同様である。関西のローカル番組の制作費は全国放送の3分の1から4分の1といわれている。この過酷ともいえる少ない予算の中で、耳を疑うような“節約術”を駆使して番組制作を行っていることをご存じだろうか? 

 番組で使用する美術セットや小道具は、別番組から流用することも頻繁。さらには、1日単位で費用が発生するスタジオ代と技術スタッフ代を節約するため、1日で10本以上をまとめて収録する荒業もやってのけてしまう。もはや、夢を売る業界とは思えない手練手管で制作を行っている状況なのだ。

 本来なら、低コストに見合った安易な番組内容になってしまうのが常だが、在阪のテレビマンはとあるスローガンを生み出したことで、制作意欲を鼓舞し続けてきた。

 カネがないなら、知恵をしぼれ。

 先人たちはそれを心の支えにして、関西ローカルから全国規模で人気を博す数々の名番組を誕生させた。その反面、「このスローガンが現在のテレビマンたちの人権意識に大きな禍根を残しています」と、T氏は悩ましげに話す。

 「過去に放送されていた『プロポーズ大作戦』『パンチDEデート』『鶴瓶上岡パペポTV』などは、関西ローカルから全国放送に昇格して人気を得た番組です。在阪のテレビマンたちは低予算の過酷な状況下でも“カネがないなら、知恵をしぼれ”を合言葉に、それらの番組を目標に関西から全国規模のヒット番組を作ろうと情熱を捧げてきました。

 しかし、その思いが強すぎるあまり、人権意識に対するチェック機能が麻痺しているのも事実。『安く制作できて面白いんだから、やっちゃおう!』と、面白さだけを追求し人権意識はおざなりになっている側面がある。その時代錯誤な制作意識が、今回のように人権侵害に抵触する企画を生み出す一番の元凶だと感じています」

 安価で制作できるからいい。面白ければいい。人権意識への配慮はなくていい。その考えが通用したのは昔の話。かつてテレビには裸体を露出するお色気番組もあれば、美醜に関する笑いもあれば、海外の食文化を“ゲテモノ”と称して罰ゲームに用いる番組もあり、現在の感覚からすると、不快に思わずにいられない企画の数々が並んでいた。

 冒頭でT氏が指摘した通り、大阪在住の筆者から見ても、とりわけ関西のローカル番組は、今もその時代の“ノリ”を捨てきれず、人権感覚に鈍感な印象がある。では実際に、どのような番組が放送されているのかを紹介していきたい。

 

人権を軽視する吉本芸人の笑い
 関西のテレビ業界を一言で表現するならば、それは“よしもと一色”と言えるだろう。関西ローカル番組枠の多くに、よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の芸人が顔を見せ、ある番組では出演者全員がよしもと芸人というケースもある。

 これだけの芸人が集まると頻発するのが、芸人同士の中だけで成立する“イジり”と、“オイシイ”とされる罰ゲームやドッキリ系の企画だ。関西のテレビにはそれが実に多く、人権意識を軽んじた言動がみられる。

 特に顕著だったのが、昨年6月まで放送されていた深夜番組『吉本超合金A』(テレビ大阪)だ。番組名からもわかる通り、よしもとが制作に協力した若手芸人総出演のお笑い番組だが、深夜番組をよいことに度を越えたイジりを展開していた。T氏も、この番組について「面白ければ何をやってもいいという姿勢を改めるべき」と指摘する。

 「お笑いを愛する私でさえも、ちょっと疑問を抱く内容が多かったですよ。女性芸人に罰ゲームとして男性が着用していたパンツを頭に被せるとか、一般の老人をおちょくるとか……。最も気になったのは、とある後輩芸人の外見を笑いにしたことです。その芸人は、生まれつき皮膚が弱く頭髪も薄い。それを、ひどいツッコミで笑いにしていました。その芸人は容姿をウリのひとつにしているとしても、世の中には、彼と同じような症状で悩んでいる人も多いことを知っているはずなのに、なんでそこまでできるのか理解に苦しみます」

 T氏とは別のテレビ関係者によると、その過激すぎる内容がテレビ局内で問題視されたという。そこで、世間から非難される前に終了させるべきとの声が相次ぎ、番組開始から1年経たないうちに番組は幕を閉じたと聞く。

 

『そこまで言って委員会NP』は低予算がもたらした問題番組
 また一方で、情報番組においても、人権を侵害するような発言や企画が展開されている。その急先鋒が、日曜のお昼に放送中の『そこまで言って委員会NP』(またしても、読売テレビ!)である。

 2002年、関西ローカルからスタートし、今では唯一関東地方だけネットしていない“関東圏外番組”を標榜する時事討論番組だ。故・やしきたかじんがメインMCを務めていた時代は高視聴率を連発していた人気番組で、橋下徹を大阪府知事に押し上げた立役者としても知られている。

 驚くべきは、番組自体が人権を侵すような制作姿勢を貫いていることだ。出演者の多くが、テレビでの発言の良し悪しを判断できるタレントではなく、テレビに慣れていないジャーナリストや大学教授であるため、言葉の端々に問題発言があるのは致し方がない。とはいえ、生放送ではないから編集ができるにもかかわらず、そのまま物議を醸す発言を放送してしまう。これは、意図的に人権を侵害しているといえるのではないか。

 あるときは、リベラル寄りの考えを“サヨクちゃん”と命名。いかにその考えが理想主義的でバカバカしいかをVTRで面白おかしく紹介していた。その興に乗じて、出演者たちは“左翼思想”を侮蔑に満ちた発言でバッシング! 公正中立が原則のテレビ業界のルールを無視し、ひとつの思想の存在を踏みにじる企画であった。

 別の回では、「放射線を浴びると妊娠しづらくなる」と紹介した後、とある男性出演者が、「男にとっては、良いことですよね(笑)」と発言。これをカットせず放送したことも信じ難いが、この発言に観客の笑いを被せ、スタジオ中が笑いに包まれたといった演出で放送してみせたのだ。女性の立場を無視する軽率な編集といえるだろう。

 他にも、数え上げればキリがない。中国の国民性を中傷する内容もあれば、共産党や女性の権利を守る団体の存在価値を小馬鹿にする内容まで、ここまで人権を軽んじる番組は稀であろう。T氏は、この番組について「低予算がもたらした、問題番組」と断じる。

 「具体的な費用はわかりませんが、やしきたかじんさんを起用していた大型番組とはいえ、番組内容を見る限り制作費はそれほど高くない印象です。その中で、あの制作チームが編み出した得策が、出演ギャラが安い文化人を揃えること。それと、必ず世間で議論が巻き起こる“保守系の論調を極める”ことでした。この2つがうまく混ざり合い、過去には視聴率20%を何度も叩き出す人気番組に成長したのです。今は当時のような勢いはありませんが、同時間帯の番組に比べれば合格点で、番組関連のDVDも売れている状況では、テレビ局も意見を言うことにためらってしまうでしょうね」

 過激さを追求しても全体として視聴率が低下している現状を見れば、視聴者もその内容に嫌気が差していると受け取れる。だからこそ、今一度、人権について正面から向き合い、“カネはないけど、知恵のしぼり方を変え”、新たな関西のテレビ文化を形作っていくべきではないだろうか。

最終更新:2019/06/03 07:15
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