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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > ”腐女子”藤野涼子の確かな演技力
ドラマ評論家・成馬零一の女優の花道

『ソロモンの偽証』藤野涼子、腐女子役で証明した確かな演技力

藤野演じる三浦さんは、腐女子そのもの?

 この考えはドラマ版にも大きく表れており、現実の同性愛者として不安を抱える純が、BLを三浦さんから教わることで徐々に救われていくという展開になっている。

 そんな三浦さんを演じるのが藤野涼子。主役の純を演じる金子大地が高校生の美少年というある種、BLからそのまま抜け出してきたようなルックスであるのに対し、三浦さんを演じる藤野は女子高生としても腐女子としてもリアルだ。

 個人的な話になるが、腐女子も含めたオタク趣味を持った女性の知り合いが何人かいる。彼女たちは好きな対象の話になると早口になって周りが見えなくなったり、人との距離感の取り方がちょっとズレているのだが、それが妙な愛嬌につながっていて、一緒に話していると、とても楽しい。

 タレントの中川翔子や宇垣美里のしゃべり方や振る舞いがまさにそうなのだが、藤野が演じる三浦さんを見ていると、彼女たちが学生の時はこんな感じだったのだろうと思ってしまう。おでこ全開で少しふっくらとして見える藤野のビジュアルは、ファッションに関しては若干地味め。だが一方で、BLという趣味に対しては強いこだわりというかプライドのようなものを持っている。そのBLにかけるプライドと意思に、純は惹かれたのだと思う。

 藤野涼子は現在19歳。14歳のとき、映画『ソロモンの偽証』(2015)のオーディションで1万人の難関を突破し、見事ヒロインに選ばれる。その時に演じた役名・藤野涼子がそのまま芸名となった。

『ソロモン』は、校内で起きたイジメによる自殺の真相を究明するために中学生たちが学校内裁判を開くという物語で、藤野は裁判開催を牽引するリーダー格の女子生徒役だった。

 学校を題材にした映画やドラマは若手俳優の登竜門となることが多く、後に人気俳優が多数出ていたと、話題になることが多い。近年の映画では『告白』(10)と『桐島、部活やめるってよ』(12)がそういう作品だったのだが、藤野を筆頭に、富田望生、石井杏奈、清水尋也、森田想といった若手が出演していた『ソロモン』も今後、そういう作品として語り継がれるだろう。

 イジメが題材であることを差し引いても本作はすごくシリアスな作品で、中学生を演じた役者たちもリアルな演技が求められた。

 藤野は本作で高く評価された。その後は映画『クリーピー 偽りの隣人』やNHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演。出演作こそ多くないが、着々とキャリアを積み重ねてきた。

『腐女子』で藤野が演じる三浦さんは、実はいそうでいない女性で、人によっては彼女のほうがファンタジーに見えるかもしれない。10代の生々しさとBLに支えられた芯の強さが同時に求められる難しい役だが、『ソロモン』で主役を務めた藤野が演じたからこそ、説得力のあるキャラクターになったといえよう。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2019/05/30 14:00
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