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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.530

まるで大巨人の脳内を探検しているかのようだ!! ホームレスも許容する『ニューヨーク公共図書館』

ホームレスをサポート

まるで大巨人の脳内を探検しているかのようだ!! ホームレスも許容する『ニューヨーク公共図書館』の画像3
返却本を分類する作業。“知の殿堂”ニューヨーク公共図書館は、いろんなスタッフたちによって支えられている。

 市民からの電話での問い合わせに司書が即座に文献を調べて答える様子、大量の返却本を各分館のコンテナへと分類していく流れ作業など、NYPLを支えるスタッフたちの姿を205分間にわたってカメラは映し出していく。中でも印象に残るのは、図書館を訪れるホームレスにどう対処すべきかを図書館員たちが熱心に討論するシーンだ。所持金なしでも雨や寒さが凌げる図書館は、ホームレスにとって欠かせないセーフティネットである。知的好奇心を持った人ならば、誰でも自由に利用できる―というのが近代図書館の基本理念となっている。世界に誇る知の殿堂・NYPLもホームレスを締め出すことはしない。他の来館者たちの迷惑にならずに、ホームレスにも利用してもらうためにはどうすればいいのかを彼らは真剣に考え、そして話し合う。

 アンソニー・マークス館長は語る。「規則や専門機関を設けることも大事だが、最終的に変えるべきはこの街の文化だ」と。ホームレスを好まざる客として排除、もしくはスルーするのではなく、米国の抱える大きな社会問題のひとつとして認識していることが分かる。気になって調べてみたところ、米国の図書館ではソーシャルワーカーを駐在させ、ホームレスたちが無料で健康チェックでき、路上生活から脱出できるようサポートする取り組みを行なっているところが少なくないようだ。NYPLでも失業者に対して、職業支援プログラムが組まれ、さまざまな職種のリクルート説明会が行なわれている。ニューヨークという街をより豊かにするためにNYPLは存在するといっていい。

 日本では経費削減のために図書館の民間委託が進んでいるが、NYPLも限られた予算の中での闘いを強いられている。市民からのニーズが高いベストセラー本を購入するか、それとも推薦図書を充実させるか。デジタル化に対応し、もっと電子書籍に予算を割くべきか。図書館員たちが頭を悩めながら話し合う様子を、ワイズマン監督は度々挿入する。図書館は別名「民主主義の砦」とも呼ばれている。書籍は人間が生み出した英知の結晶だ。図書館にはそんな英知の結晶を時代を超えて守り、より育んでいく役割がある。そのためにも多くの人たちが対話を続ける必要がある。ユダヤ系移民であるワイズマン監督の伝えたいことが、声高ではなく映像を通した形ではっきりと浮かび上がる。

 米国は、いろんな人種や民族によって成り立っている。マスメディアに煽られて誤った戦争を犯し、レイシストを大統領に選んでしまったりもする。それでも、米国は民主主義国家であることは止めようとはしない。NYPLの内情を知るということは、米国という名の大巨人の頭の中を覗くということに等しいのではないだろうか。

 脳みそは使えば使うほど活性化されるらしい。日本という名の小さな巨人の脳みそも、もっと積極的に活用したい。
(文=長野辰次)

まるで大巨人の脳内を探検しているかのようだ!! ホームレスも許容する『ニューヨーク公共図書館』の画像4

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
監督・録音・編集・製作/フレデリック・ワイズマン
配給/ミモザフィルム、ムヴィオラ
5月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー
(C)2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved
http://moviola.jp/nypl

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最終更新:2019/05/13 15:09
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