まるで大巨人の脳内を探検しているかのようだ!! ホームレスも許容する『ニューヨーク公共図書館』
#映画 #パンドラ映画館
友達や交際相手の家に初めて遊びに行った際、本棚に見入ってしまう人は多いのではないだろうか。これまでに一体どんな本や漫画を読み、思考回路が形成されてきたのか気になってしまう。本棚チェックには、その人の頭の中を覗き見るような面白さがある。この考えに同意してくれる方なら、フレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(原題『Ex Libris The New York Public Library』)は充分に楽しめるはずだ。ニューヨーク公共図書館(以後、NYPL)は米国最大の図書館。つまり、NYPLの裏側を見せる本作を観ることは、多種多様な人種や民族によって形成されている米国人の頭の中を覗いてみることに等しいといえるだろう。
ワイズマン監督は1930年生まれのドキュメンタリー映画界の大巨匠。フランスの超一流トップレス劇場を密着取材した『クレイジーホース パリ・夜の宝石たち』(11)、英国人のこだわりを感じさせる英国立美術館でカメラを回した『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(14)など、人気スポットのバックヤードにカメラを潜り込ませ、なぜ人気スポットとなりえているかを描き出してきた。ワイズマン監督のドキュメンタリー作品は“ダイレクトシネマ”と呼ばれ、ナレーション、テロップ、BGM、インタビューなどは排されている。まるでワイズマン監督と一緒に撮影現場に立ち会っているかのような気分になってくる。
1911年に竣工したボザール様式のNYPL本館は、映画『ティファニーで朝食を』(61)や『ザ・デイ・アフター・トゥモロー』(04)の舞台になるなど、ニューヨークの観光スポットとしても有名だ。NYPLは厳粛さの漂う本館に加え、多くのアーティストが通い詰めた舞台芸術図書館をはじめとする4つの研究図書館、地域に密着した88の分館を合わせた92の図書館ネットワークとなっている。世界有数の蔵書数を誇る、まさに知の殿堂である。日本の公立図書館が税金によって運営されているのに対し、NYPLは市の出資と民間からの寄付金によって成り立っている点が特徴だろう。
運営費の違いだけでなく、図書館側から市民へと呼び掛ける姿勢も日本の図書館とは大きく異なる。図書館というと本好きな人が通う無料の貸本屋、もしくは試験前の学生たちが静かに勉強する場所というイメージがあるが、NYPLはもっとアクティブだ。日本以上に米国では経済格差が激しい。パソコンを持ってない低所得者や移民向けにパソコン講座を開き、情報格差に陥らないよう啓蒙活動に努めている。エルヴィス・コステロやパティ・スミスら人気アーティストたちのトークライブが開かれ、シニア向けのダンス教室など多彩なワークショップも用意されている。もちろんすべて無料。NYPLはとても賑やかで活気が溢れている。
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