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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.529

人生を詰んだ瞬間から、本当の人生が始まった!? 感動実話『ドント・ウォーリー』『HOMIE KEI』

ドキュメンタリー映画『HOMIE KEI チカーノになった日本人』

『HOMIE KEI チカーノになった日本人』より。元ヤクザのKEIは、米国の刑務所で世話になったチカーノたちに感謝の気持ちを伝える。

 4月26日から上映が始まったドキュメンタリー映画『HOMIE KEI チカーノになった日本人』も、生死の狭間を味わった主人公が、それまでの最悪人生を逆回転させていく驚きのトゥルーストーリーとなっている。顔に大きな傷痕、背中には刺青、小指が欠けている元ヤクザのKEI。母親が育児放棄し、親戚や知り合いの家をたらい回しされながら育ったKEIは、中学卒業後は暴走族から暴力団組員へとワルの道を突き進んでいた。障害者の乗る車イスのパイプにコカインを隠して海外旅行させるなど、KEIは頭の回転がよく、ドラッグビジネスで大儲けすることになる。
 
 ところがハワイでFBIの囮捜査に引っ掛かり、KEIは米国の重犯罪者用刑務所で10年以上を過ごすはめとなる。かわいがっていたはずの弟分の裏切りだった。人種のるつぼである米国の刑務所は、リンチや殺人が平然と行なわれるこの世の生き地獄だった。黒人グループやイタリア系グループなどが割拠する刑務所内へ日本人がたった一人で放り込まれたことは、オカマを掘られるか死を意味していた。どこにも逃げ場のない絶体絶命の状況にありながらKEIは「見下されるのなら、死んだほうがまし」と不敵な態度を貫き、刑務所内の最大勢力であるメキシコ系グループ“チカーノ”のボスに気に入られる。

 刑務所で更生できずにいる受刑者が多い中、KEIはチカーノたちと出会ったことで人生が大きく変わっていく。人との繋がりを求めて暴走族や暴力団に身を置いていたKEIだったが、いつの間にか人間関係よりもお金のほうが大事になっていた。それに対してチカーノたちはお金や法律よりも、仲間同士の関係を大切にしていた。日本のヤクザが失っていた“仁義”が生きていた。KEIは刑務所でチカーノたちと家族同然の仲となり、刑務所内で上映されている映画と辞書で語学をマスター。日本に帰国後は、チカーノのファッションブランド店やクラブを経営し、成功を収めている。

 薬物とはきっぱり縁を切り、現在はチカーノカルチャーを日本で広める他、児童クラブを無償で設立し、家庭や学校に居場所のない子どもたちとの交流を育んでいる。『ドント・ウォーリー』のジョンと同じく母親と一緒に過ごした幼少期の記憶のないKEIは、チカーノの一員となったことで家族の温かさをようやく知ることができた。7年ごしでKEIを追い続けたカメラは、KEIが子どもたちと一緒になって笑っている姿を映し出す。本当は自分が幼い頃に母親にしてほしかったことを、自分が母親代わりになって子どもたちにしてあげているかのように思える。

 大事故に遭いながらも、命拾いしたジョン・キャラハン。いつ殺されてもおかしくない刑務所からの生還を果たしたKEI。2人とも単に運がよかっただけなのかもしれない。でも、ジョンもKEIも人生のドン底での出会いの中に幸運の種を見つけ、それを大事に育て続けた。彼らの本当の人生は、ドン底から始まった。

(文=長野辰次)

『ドント・ウォーリー』
原作/ジョン・キャラハン 監督・脚本/ガス・ヴァン・サント
出演/ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック、マーク・ウィーバー、ウド・キア、キャリー・ブラウンスタイン、ベス・ディットー、キム・ゴードン
配給/東京テアトル 5月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラスト渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
http://www.dontworry-movie.com

『HOMIE KEI チカーノになった日本人』
監督/サカマキマサ 撮影/加藤哲宏 音楽/原夕輝
編集/有馬顕、大畑創、トラビス・クローゼ
配給/エムエフピクチャーズ 4月26日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
https://homie-kei.com

最終更新:2019/05/03 19:30
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