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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.529

人生を詰んだ瞬間から、本当の人生が始まった!? 感動実話『ドント・ウォーリー』『HOMIE KEI』

ホアキン・フェニックス主演作『ドント・ウォーリー』。車イスに乗った漫画家ジョン・キャラハンの生涯を、ホアキンが熱演している。

 ジョン・キャラハンは最悪な人生を送っていた。幼い頃に実の母親に捨てられ、母親の名前すら知らない。養父母に育てられたが、13歳で酒を覚え、成人したときにはすっかりアルコール依存症となっていた。21歳のとき、酔った友人の運転する車が大破。ジョンは胸から下が麻痺状態となり、車イス生活を余儀なくされる。不幸に輪を掛けたようなドン底人生だったが、そんな中でジョンは親身に接してくれる人たちと出会い、やがて漫画家として活躍するようになる。ガス・ヴァン・サント監督の『ドント・ウォーリー』(原題『Don’t Worry ,He Won’t Get Far on Foot』)は、実話をベースにしたホロリとさせる人間ドラマとなっている。

 不幸な星のもとに生まれたことを、呪って生きてきたジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)。車イスに乗るようになってからも、つらい現実を忘れるためにアルコールを手放せずにいた。そんなジョンに、キツい言葉を投げ掛ける人物が現われる。AAと呼ばれる断酒会を主宰するドニー(ジョナ・ヒル)だった。交通事故を起こしたのに見舞いにすら来なかった友人デクスター(ジャック・ブラック)を非難するジョンだったが、ドニーは「酔っぱらいの運転する車に、なんで君は乗ったんだ?」と問い掛ける。ジョンは「酔っぱらっていたので、覚えていない」と答えるのが精一杯だった。自分は同情こそされても、責められる立場ではないと思っていたのだ。

 振り返ってみれば、ジョンのそれまでの人生は母親に捨てられたことを口実に、ずっと周囲へ不満を漏らしてばかりだった。世間をディスってばかりで、自分自身は何もしていなかったことにジョンは気づく。

断酒会を主宰するドニー(ジョナ・ヒル)。依存症に悩む人たちが彼の元に集まり、それぞれの体験を語り合うグループトークが行なわれる。

 ジョンは自分を育ててくれた養父母のことも嫌っていた。養父母は血の繋がった実の子どもは叱ったが、ジョンが悪戯をしても叱ることはなかった。ジョンはそのことに、ずっと疎外感を感じていた。障害者センターのスタッフの対応が悪いことにも腹を立てていた。自分の人生も周囲にいる人たちも、みんなまとめて呪い続けてきたジョン。だが、依存症だけでなく、さまざまなトラブルを抱えるドニーら断酒会のメンバーたちやセラピストのアヌー(ルーニ・マーラ)との交流によって、それまでの生き方を改めることになる。

 得意のブラックジョークを生かそうと、うまく動かない手を使い、風刺漫画を描き始めるようになるジョン。社会の底辺から世界を見つめたジョンのひとコマ漫画は、賛否両論ながらも、地方新聞や雑誌に掲載されるようになっていく。人生、詰んじゃったな……としか思えない状況から、現実を噛み締めたジョンの本当の人生がゆっくりと始まった。

 米国ポートランドを舞台にした本作の企画を立ち上げたのは、ガス・ヴァン・サント監督のヒット作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)に出演したロビン・ウィリアムズ。自身の主演作として漫画家ジョン・キャラハンの自伝の映画化をガス・ヴァン・サント監督に依頼していたが、ロビンは2014年に急逝。ホアキン・フェニックスが名優の遺志を継ぐ形で完成に至った。

 兄リバー・フェニックスをオーバードースで失うなど、生と死を隔てるボーダーは紙一重であることをホアキンは知っている。宗教への依存を描いた『ザ・マスター』(12)や人工知能との恋愛ドラマ『her/世界でひとつだけの彼女』(13)と並ぶ、彼の代表作となりそうだ。

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