ザ・ビートルズの記録を塗り替えた音楽界の革命児、 “ポスト・マローン”という社会現象は日本に上陸するか
#ラッパー
白人ラッパー、ポスト・マローンが世界中で大人気だ。その不思議な存在は、一般的な「ラッパー」イメージからはかけ離れている。彼の代表曲「Rockstar」が象徴するように、トレードマークはギターとロックスター・スタイル。音楽も混沌としており、ヒップホップでありながらフォーク、エレクトロ、グランジの雰囲気も携えている。人物像としては、ポップでゆるく少々怪しいが、どこか親しみやすい。一体、この男は何者なのか? そのバックグラウンドをはじめ、たった数年で彼が打ち立てた大記録や音楽業界を一変させた社会現象も掘り下げてみたい。
1995年アメリカに生まれたポスト・マローンは、若い頃DJだった父のもと、さまざまな音楽に触れて育った。そのためか、ロック・アクトを目指したのちラッパーに転身している。白人ながらラッパーを志した背景は今の時代、何も驚きもしない流れだが、ヒップホップのみに固執しないジャンルレスな音楽性は育った環境の賜物だろう。そうした柔軟さがティーンの心をつかみ、15年にはインターネットにアップした楽曲「White Iverson」が1カ月足らずで100万回再生を突破。そのまま米ユニバーサル傘下のレーベル〈リパブリック・レコード〉と契約、17年には前出の「Rockstar」をリリースし、堂々の全米1位を獲得するに至った。同じく、セカンド・アルバム『Beerbongs & Bentleys』(18年)も全米初登場1位を記録し、音楽ストリーミングサービスの最大手、Spotifyにおいては、1週間の総再生回数が約4億3000万回という世界最高記録を打ち立てた。その結果、ビルボード・トップ20に9曲がランクインし、ザ・ビートルズが54年もの間、保持していたビルボードのランクイン記録を、彼はいとも簡単に更新してしまった(いずれも18年4月当時)。フィジカル(CD)やダウンロード販売が伸び悩み、ストリーミングサービスがアーティストの大きな利益となる昨今、まさに時代の寵児といえるのがポスト・マローンなのだ。
23歳で世界の頂点に立ったポストは、自身をキャラクター化するビジネスにおいても大勝している。例えば、昨年販売した“キモかわいい”ぬいぐるみ。その設定は、自身のブランドを定義づけるかのように「ファニーでアグリー、ちょっとほのぼの」と説明されている。日本でも人気のCrocsとコラボした独特なデザインのサンダルは即完売となり、ポップの女王マドンナは自身のインスタグラムで「どこで手に入るの!?」と探し求めているコメントをアップしたほど。また、ロックスター・スタイルと並ぶトレードマークが、顔面にまで施された無数のタトゥーだ。足には日本のマンガ『犬夜叉』(小学館)のキャラクターが彫られていたりと、彼らしい“ポップで奇妙なゆるさ”のシンボルとして機能している。近年は「ポスト・マローンになれるタトゥー・シール」が人気を博し、英米のキッズやティーンエイジャーの間では彼の仮装がハロウィンの定番化した。日本で例えるなら、子供心を掴むコミカルさにおいては人気YouTuberであるヒカキンに近い存在なのかもしれない。
ポスト・マローンとは新たなるスターであり、ニュー・ブランドだ。その存在を経済界が見逃すはずもなく、Forbes誌は『次世代を牽引する30歳未満の若者30人』の1人に選出している。もちろん、かのテイラー・スウィフトが嫉妬を表明する音楽の才能こそが第一の武器だが、その強烈な個性こそがヒットメイカーとしてのみならずポップスターとしての地位をも授けたといえる。ポスト旋風は止まらない。19年にはヒット映画『スパイダーマン:スパイダー・バース』に提供した楽曲「Sunflower」がキャリア3度目の全米ナンバーワン・ヒットを飾り、続く「Wow.」もチャート2位を獲得。もはや「曲を出せば売れる」無敵状態だ。
興味深い事実としては、十八番化しつつあるベテラン・ロックスターとの共演だろうか。18年の「MTVビデオ・ミュージック・アワード」はエアロ・スミスと、翌年のグラミー賞ではレッド・ホット・チリペッパーズとの豪華パフォーマンスを果たしている。「ロックスター的ラッパー」像を確立させた彼らしいこのコラボレーションは、視聴者数低下にあえぐ音楽番組にとってもありがたいはずだ。今をときめく人気者のポストが大御所バンドと組めば、キッズから若者、そしてロック世代である彼らの親や祖父母世代までも画面へと惹きつける経済効果も生まれる。日本での知名度は、世界と比較すればまだまだかもしれないが、これからも快進撃を続けるであろうポスト・マローンは、幅広い年代のハートはもちろん、ビジネスピープルの野心すら射止めていくはずだ。
(文=辰巳JUNK)
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