恋愛感情とは異なる、好きな人に嫌われたくないという想い。岸井ゆきの×成田凌『愛がなんだ』
#映画 #パンドラ映画館
監督は「片想い」を撮り続けてきた才人
今泉監督は『こっぴどい猫』(12)、『サッドティー』(13)、『退屈な日々にさようならを』(17)など“一方通行の想い”をテーマにしたオリジナル映画を撮り続けてきた才人。今泉作品の主人公たちは、いつも誰かに片想いしている。片想いがいつか両想いになれば、それはとてもハッピーなことだが、逆に相手のことが嫌いになる日が訪れるかもしれない。でも、ずっと片想いのままだったら、嫌いになることもできない。永遠に好きなままでいるはめになる。テルコとマモル、葉子とナカハラの4人に、マモルが合コンで出会った“がさつ女”すみれ(江口のりこ)が加わり、回転木馬のようにグルグルと一方通行の恋愛模様は回り続けることになる。『ちびくろサンボ』の虎たちのように、溶けてバターになってしまわないか心配になってしまう。
映画用に脚色された『愛がなんだ』で、ストーリーの均衡を破るキーパーソンとなるのは口数の少ないナカハラだ。葉子を崇め、呼び出されるだけで充分満足していたナカハラだが、行き先の見えない関係に疲れ、回転木馬から降りることを決意する。ナカハラに自分の姿を投影していたテルコは、“片想い同盟”から離脱するナカハラをなじるが、恋愛とは決して我慢比べ競争ではない。テルコはナカハラを通して、観客はテルコを通して、そのことに気づくことになる。
好きな相手に嫌われたくないという感情だけでなく、他にも言語化されていない感情が本作には描かれている。相手のことが好きすぎて、相手と一心同体化してしまいたいという願望だ。マモルの彼女になれないのなら、いっそマモルそのものになりたいとテルコは願うようになっていく。回転木馬はいったい、いつまで回り続けるのだろうか。
原作にはない、テルコなりの決断が映画の最後に描かれる。ハッピーエンドでもなく、バッドエンドでもない、不思議なエンディングとなっている。愛がなんだ。テルコはけっこー楽しそうだ。
(文=長野辰次)
『愛がなんだ』
原作/角田光代 監督/今泉力哉 脚本/澤井香織、今泉力哉
出演/岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、穂志もえか、中島歩、片岡礼子、筒井真理子、江口のりこ
配給/エレファントハウス 4月19日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
(c)2019「愛がなんだ」製作委員会
http://aigananda.com
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