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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.527

恋愛感情とは異なる、好きな人に嫌われたくないという想い。岸井ゆきの×成田凌『愛がなんだ』

恋愛感情とは異なる、好きな人に嫌われたくないという想い。岸井ゆきの×成田凌『愛がなんだ』の画像1
注目の若手俳優・岸井ゆきのと成田凌が共演した『愛がなんだ』。恋愛関係にはなぜか発展しない、おかしな人間模様が描かれる。

 原作小説と映画との、これほどまでの幸せなマリアージュもないのではないか。そう思わせるほど、映画『愛がなんだ』の登場キャラクターたちはみんな生き生きとしている。恋に浮かれ、愛に悶えのたうち回る。まるで、知人の体験談がスクリーン上で再現されているかのような親密さを感じさせる内容だ。原作の世界観、監督の演出力、キャスト陣の新鮮さがうまく化学反応を起こした愛すべき映画となっている。

 直木賞作家・角田光代が2003年に発表した同名小説が原作。角田作品は『空中庭園』(05)、『八日目の蝉』(11)、『紙の月』(14)、『月と雷』(17)などが映画化されており、いずれも高く評価されている。女の本音たっぷりな角田作品のヒロインたちは、映画との相性がいい。単館系での活躍が続く今泉力哉監督による本作も、角田名作劇場のひとつに加えることができる。

 主人公のテルコ(岸井ゆきの)は28歳になるOL。たいして仲のよくない知り合いの結婚パーティーに参加し、出版社に勤めるマモル(成田凌)と知り合った。お互いに社交派タイプではない2人は、妙にウマが合った。以来、テルコはマモルに携帯電話で呼び出されては、ほいほい付き合う飲み仲間となる。テルコはマモルにぞっこんだが、マモルはその気はないらしい。それでもテルコは、いつマモルに呼ばれてもいいように職場で連絡を待ち続けている。会社の付き合いは、いっさい断るというこだわりようだった。

 ゴールの見えない片想いなんて止めて、別の男を探せばいいとテルコの親友・葉子(深川麻衣)は忠告するものの、葉子は葉子で問題がある。雑誌編集者の葉子は、年下のカメラマン・ナカハラ(若葉竜也)を自宅に呼びつけ、使いっぱにしている。ナカハラに対して、女王さまのように振る舞う葉子だった。マモルも葉子もやっていることは一緒だ。惚れた相手の弱みに付け込み、生殺し状態にしている。恋愛マウンティング上位者の残酷さを感じさせるマモルと葉子だった。

恋愛感情とは異なる、好きな人に嫌われたくないという想い。岸井ゆきの×成田凌『愛がなんだ』の画像2
テルコ(岸井ゆきの)はマモル(成田凌)の部屋に泊まる仲になるものの、それでもまだ恋人にはなれずにいた。

 本作をジャンル分けすれば恋愛コメディになるわけだが、描かれているのは一般的な恋愛感情とはビミョーに異なる。好きになった相手には嫌われたくないという、まだ名前の付いていない心の動きだ。テルコはマモルからしつこい女と思われたくないので、自分から連絡を入れることはしない。気まぐれなマモルからの連絡をひたすら待ち続けている。お陰で仕事はまるで手につかない。ようやくマモルから連絡があると、ずっと待っていたことを勘づかれないようにうれしさを押し殺しながら振る舞う。けなげで、イタくて、報われない女、その名はテルコ。『ピンクとグレー』(15)以降、注目度がぐんと上がった岸井ゆきの演じるテルコが、たまらなく愛おしく感じられる。

『ニワトリ★スター』(18)ほかクセの強い役を好む成田凌が演じるマモルだが、こいつもかなりイタい男だ。33歳になったら今の仕事を辞めて野球選手になるだの、動物園の飼育員になるだの、現実味のない妄想をテルコにつらつらしゃべっている。なんで、こんなダメ男に惚れてしまうんだよ、目を覚ませよ、テルコ! と葉子ならずとも言いたくなるが、マモルのことで頭がいっぱいのテルコの耳には入らない。好きになったら、止めようがない。テルコの生態を観察することで、人間とは恋をすると実に面白い行動を繰り返すおかしな動物であることがよく分かる。

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