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平成J-POPプレイバック!

昭和から平成、そして令和へ……時代と共に突っ走し続ける松任谷由実

デビュー45周年ライヴで見た、ユーミンの覚悟

 僕が観た日のユーミンのヴォーカルは、それほど悪い状態ではなく、人によっては全然気にならないレベルだったと思う。ただ、中には(公演日によっては)とても手厳しく指摘しているリスナーもいるし、年末の『紅白』出演が決まった時にまでどこかでそうした意見を見たほどだった(こちらの生放送の本番は問題なかったと思うが)。

 もちろん、いろんな意見があるのはわかる。だが、長い時間をかけて行われるそのライヴを見ているうちに、僕はあのステージにはユーミンの覚悟のようなものがあった気がした。

 声の状態なんて、観客より本人のほうがよく把握しているに決まってる。なんといっても、そもそも完璧主義の人だ。鋼のような意志とパワーがあったからこそ彼女はあの喧騒の昭和から平成の時代を高速で駆け抜けられたのだと思うし、だからこそ今ここでそうした現実に直面していることを重く受け止めていないわけがない。

 それでもユーミンは日本中を回り続けている。そこには並々ならぬ、なんらかの思いがあるような気がして仕方がないのだ。

 思うのは、ユーミンは自分が長きにわたって生み出し、唄ってきた大切な歌の数々を、これだけの規模(今回のツアーの会場はいずれもアリーナ)で、しかも全国各地で披露できる機会は、今後そうそうはないと考えているのではないか、ということだ。

 年齢に触れる失礼をあえて許してもらいたいが、いまユーミンは65歳である。ステージでは、それもウソじゃないかと思うほど、すさまじいパフォーマンスを見せてくれる。歌も振り付けもダンスも全開で、手抜きなんて一切なし。体を目いっぱい張り、精神を目いっぱいみなぎらせながら数時間のライヴに挑んでいるのである。昔も、今も。

 ユーミンは僕より、ひと回り以上、上の世代のアーティストだ。それでも自分を追い込むようにしながら、あそこまでのレベルのものを今なおクリエイトし続けようとする姿勢に対しては、感服とリスペクト以外の感情が浮かんでこない。

 そこには、ここまでの長期間突っ走ってきて、途中でそのスピードはいくぶん緩めたものの、それでもまだまだ戦い続けているアーティストの姿が見えてくる。そしてそれはバブルの時代には見えてこなかった松任谷由実像であったりする。

「文句あるんだったら、あなたもここまで来てみなさいよ。これだけのこと、ほかの誰がやれるっていうの?」

 ……いや、ユーミンはこんな野暮なことは言わない。それはわかってる。

 ただ、今のステージに、彼女の矜持が見えるのは間違いない。

 この日本では、恋愛観も、経済状態も、何よりも人生観が大きく変わった。あの頃とは。

 しかしそれでも、少なくとも大人世代は、現在のユーミンの姿からも何かを感じられるはずである。

 ユーミン。やはり、そして、今もって、とんでもないアーティストである。

●あおき・ゆう。
1966年、島根県生まれ。男。
94年、持ち込みをきっかけに音楽ジャーナリスト/ ライター業を開始。
洋邦のロック/ポップスを中心に執筆。
現在は雑誌『音楽と人』『テレビブロス』『コンフィデンス』『 ビートルズ・ストーリー』『昭和40年男』、
音楽情報サイト「リアルサウンド」「DI:GA online」等に寄稿。
阪神タイガース、ゲッターロボ、白バラコーヒー、ロミーナ、 出前一丁を愛し続ける。
妻子あり。
Twitterアカウントは、@you_aoki
 

最終更新:2019/04/03 18:00
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