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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 木村文乃、堤幸彦作品で覚醒?
ドラマ評論家・成馬零一の女優の花道

『SPEC』史上“破格のヤバい女”を熱演! 美人なのに華がない木村文乃が、堤幸彦作品で大化け?

安定感はあるが、華がない

 普段の御厨は眼帯をしており、右目の部分は髪で隠している。手にはリストカットの痕があり、どうやらその傷痕の数だけ、なんらかの悲劇があったのではないかと想像させる。強力すぎる力は彼女の体を蝕んでいるため、半分死人のようになりながら、SPECホルダーの事件を追って捜査する。目的のためなら手段を選ばず、違法捜査は当たり前。敵だと思ったら、容赦なく拳銃でプラスチック弾を撃ち込む。

『ケイゾク』や『SPEC』の頃はテレビシリーズという制約があったため、デタラメな主人公を登場させても、最低線の人間らしさは死守していたのだが、サブスクリプションメディアという閉じた場所に舞台を移したからこそ、どこまでも暴走してやるという勢いが『SICK’S』と御厨にはある。

 こんな危ない役を演じているのが木村文乃だというのは、彼女を知っている人ほど意外に感じるかもしれない。

 木村は現在31歳。2006年に公開された映画『アダン』のヒロイン役をオーディションで勝ち取り、女優としてデビューした。その後、NHK大河ドラマ『功名が辻』を筆頭に数々の映画・ドラマに出演するが、体調不良によって22歳の時に芸能活動を一時休止。

 この間は引退も考えながらさまざまなアルバイトを経験していたというが、23歳の時に、現在の事務所であるトライストーン・エンタテイメントに所属して活動を再開する。

 その後はNHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』や、初の主演ドラマとなった『マザー・ゲーム~彼女たちの階級~』(TBS系)に出演。今では映画・ドラマに欠かせない女優となっている。

 木村の演技は、無色透明で薄味。安定感はあるが、美人なのに華がない。彼女のような女優は脇に徹することで周囲の俳優を光らせるので絶対に欠かせない存在だが、女優としては見せ場の少ない損な役回りだなぁと、ずっと思っていた。

 そんな中『SICK’S』で演じる御厨は、かつてない濃いキャラクターとなっている。

 堤演出は映画『イニシエーション・ラブ』とドラマ『神の舌を持つ男』(TBS系)で体験積み。後者ではコミカルな芝居を見せており、おそらくそこで堤は木村の演技に手応えを感じ、今作での起用を考えたのだろう。

 黒装束に眼帯という派手なビジュアル。感情の波も激しく、ごちゃごちゃとした要素の多い謎の女だが、そんな御厨が成立するのは木村の演技が無色透明だからだ。

 暴走する御厨を演じることで、木村は今後、どんな女優へと覚醒するのか? 本編とは違う、もうひとつのドラマがそこにはある。

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2019/03/29 14:18
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