特殊能力は何ひとつないけど、最強のヒーロー!! モチーフは白河だるま『ライズ ダルライザー』
#映画 #パンドラ映画館
ヒーローとは、特撮ドラマやコミックの世界だけにしか生息できないフィクション上の存在なのか。ヒーローになれるのは、選ばれし人間だけなのか。そんな素朴な質問に、真剣に熱く答えるヒーロー映画が公開される。福島県白河市で撮影された『ライズ ダルライザー -NEW EDITION-』がそれだ。ハリウッド育ちのマーベルヒーローやDCヒーローに比べ、超低予算な手づくりヒーローだが、観た人の心にグサリと突き刺さるアクション快作に仕上がっている。
現在公開中の『スパイダーマン:スパイダーバース』や『アクアマン』たちはそれぞれ驚異的なスーパーパワーを備えているが、本作のヒーローであるダルライザーには特殊能力はまったくない。生身の30代のおじさんが手縫いのオリジナルスーツに着替えて闘うだけ。唯一、ダルライザーを支えているのは「やられてもやられても、何度でも立ち上がる」という不屈の精神のみ。そう、ダルライザーは白河市の名産品である白河だるまをモチーフにしたご当地ヒーローなのだ。
ダルライザーを考案したのは、本作に主演し、原案&プロデューサーも務めている白河市在住の和知健明さん。20代の頃は東京で自主映画づくりやコントなどの俳優活動に励んでいたが、結婚を機に地元である白河市に帰郷。やがて子どもが生まれ、我が子に愛情を注ぐ日々を送るようになった。そんな折、和知さんが所属していた白河市商工会議所青年部でご当地キャラクターを作ることになる。それが2008年のこと。和知さんの心の片隅にあったモヤモヤが、ひとつの形へと具象化していく。
故郷・白河市をこよなく愛する和知さんだが、子どもの頃の楽しみだった映画館が現在は市内にひとつもないなど、町に活気がないことが気がかりだった。これから大きくなる我が子たちのためにも、もっと元気な町にしたい。そこで思いついたのが、白河だるまからヒントを得たヒーローだった。特殊能力も武器もいっさいなし。「決して諦めない。倒れても倒れても、何度でも起き上がる」がヒーローのコンセプトだった。名前は公募の結果、ダルライザーに決まった。
映画『ライズ ダルライザー』は和知さんの半生をそのままドラマ化したような内容だ。主人公の館アキヒロ(和知健明)は人気俳優になることを夢見て、東京で役者を続けていた。観客を間近に感じられる舞台はやりがいがあるものの、生活は楽ではない。ある日、妻のミオ(桃奈)が妊娠したことを告げる。経済的に今のままでは子育ては無理なことから、白河市にあるアキヒロの実家にミオを連れて帰ることに。警備会社で働き始めるアキヒロだったが、俳優になる夢を捨てきれず、白河市が募集しているキャラクターコンテストに応募することを思いつく。かくしてオリジナルキャラクターのダルライザーが誕生。市内のヒーローショーで地味に俳優業を再開するアキヒロだった。
自伝的要素の強いダルライザーの物語だが、中盤からはSFタッチのサスペンスアクション映画として盛り上がりを見せていく。天才的な科学者である田村(田村論)は秘密組織ダイスを率い、“シャングリラ計画”を進めようとしていた。パーソナルシートと呼ばれるハイテクガジェットを白河市民に無料配布し、このシートを体に装着すれば100%の意志の疎通が可能になるという画期的なプロジェクトだった。シャングリラ計画が実施されれば、人は心の中に秘密を持つことはなく、嘘をつくこともなくなる。まさに白河市は理想郷になるはずだった。
だが、白河市がシャングリラ化すれば、市民の意思はひとつにまとまる一方、少数意見を持つ存在は認められなくなってしまう。ダイスの暴走を防ぐため、アキヒロは武術の師範であるアレハンドロ(フスト・ディエゲス)や幼なじみのマナブ(三浦佑介)と共に立ち向かっていく。ダイスたちにボコボコにされながらも、懸命に立ち上がるダルライザーことアキヒロの姿がそこにはあった。
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