アンチノミーを抱えたハリウッドの頑固オヤジ! クリント・イーストウッドが贖罪の旅『運び屋』
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ハリウッドが誇る大スターでありながら、名監督でもあり続けるクリント・イーストウッド。誰もが認める唯一無二の存在だ。イーストウッド自身による生前葬を思わせた主演&監督作『グラン・トリノ』(08)の後も、『インビクタス/負けざる者たち』(09)や『アメリカン・スナイパー』(14)などの力作、名作を監督し、精力的に活動を続けている。そんなイーストウッドが10年ぶりに主演&監督したのが、全米大ヒット作『運び屋』(原題『The Mule』)。88歳になるイーストウッドが実在した87歳の麻薬の運び屋を演じ、イーストウッドの映画人生と重なり合うロードムービーとなっている。
「今のハリウッドは若者向けの映画ばかりで、自分に合った作品がない」と『グラン・トリノ』以降は、イーストウッド作品を長年プロデュースしてきたロバート・ロレンツの監督デビュー作『人生の特等席』(12)に出演しただけで俳優業はリタイア状態だった。1930年生まれというイーストウッドの年齢を考えれば、年1本ペースで監督業を続けていることすら驚異だが、久々に俳優として興味を示したのが87歳のおじいちゃんが麻薬の運び屋をやっていたという雑誌記事だった。「この役を演じられるのは俺だ」と久々に主演&監督作を引き受けることになった。
主人公のアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は地方都市で暮らす園芸家。特にデイリリーという手間の掛かる花を育てることに情熱を注いできた。品評会では多くの賞を受賞し、社交的な人柄で人気者だった。だが、外面のよさとは反対に、家庭を省みることはなかった。娘アイリス(アリソン・イーストウッド)の結婚式すら欠席し、妻のメアリー(ダイアン・ウィースト)とは離縁。さらにはネットビジネスの台頭で、アールは園芸場と家も失い、天涯孤独の身に。そんなとき、アールに怪しい儲け話が持ち掛けられる。
アールは全米各地の品評会に参加してきたので、車の運転には自信がある。しかも違反ゼロ。そんなアールに目をつけたのがメキシコの麻薬カルテルだった。アールは言われるがまま、年代物のトラックに大きなバッグを載せ、指定された場所へと届ける。「見るな」と言われたバッグの中身は、キロ単位の大量の麻薬だ。警察もまさか80歳過ぎの老人が麻薬の運び屋だとは思わないだろうという麻薬カルテルの狙いだった。
アールじいさんは朝鮮戦争に従軍した退役軍人なので肝っ玉が据わっている。レストランでのんびり休憩したり、タイヤがパンクして困っている家族を見つけては手助けしたりと、自由気まま。麻薬取締局のコリン捜査官(ブラッドリー・クーパー)が麻薬ルートを一網打尽にしようと網を張っているが、その網にアールはなかなか引っ掛からない。
運び屋稼業で儲けたギャラで園芸場を取り戻しただけでなく、唯一アールのことを慕ってくれていた孫娘ジニー(タイッサ・ファーミガ)の結婚パーティーの費用を全額負担する。さらには閉鎖が決まっていた退役軍人クラブに大金を寄付するなどの大判振る舞い。義賊ロビンフッドになったような気分だった。男としての自信をすっかり取り戻し、宿泊先にセクシーな風俗嬢を2人も呼ぶほど。麻薬カルテルから派遣された若い監視役に「人生には遊びが必要だ」と説教を垂れるアールじいさんだった。
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