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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > なぜアイドルはナチ衣装NG?
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.518

なぜアイドルはナチ衣装を着てはいけないのか? ヒトラー政権末期に現われた『ちいさな独裁者』

空軍大尉だと偽称し、敗残兵を率いた実在の人物ヴィリー・ヘロルトを主人公にした異色の戦争映画『ちいさな独裁者』。

 映画を量産することで有名なベテラン監督が、以前こんなことを語った。「キャリアのない俳優でも、丸坊主にして軍服を着るとそれっぽくなるものなんです」と。役に合ったファッションをまとうことで、俳優は内面も役へと近づいていく。衣装の果たす役割はとても大きい。それがナチスドイツの軍服なら、なおさらだろう。中でも洗練されたデザインのナチスドイツ将校の軍服は、誰が着てもかっこよく映った。第二次世界大戦末期のドイツを舞台にした映画『ちいさな独裁者』(原題『Der Hauptmann』)は、ナチス将校の軍服をめぐる実話をベースにした興味深いドラマとなっている。

 本作の主人公となるのは、実在の人物ヴィリー・ヘロルト。1925年に屋根ふき職人の息子として生まれ、煙突清掃員の見習いとして働いていた。1943年にドイツ国防軍へと徴兵され、イタリアを転戦した後、ドイツ本国の防衛線に配属。1945年4月、連合軍とソ連軍の攻勢によりドイツの敗戦は濃厚となり、ヘロルトは戦場を離脱し、脱走兵となる。物語はここからスタートする。

 命からがらに戦場から逃げ出したヘロルト(マックス・フーバッヒャー)。極度の飢えと寒さに苦しみながら無人の荒野をさまよった末に、路上に放置されていた軍用車を見つける。車内にはナチス将校の軍服が残されていた。寒さを凌ぐため、将校の軍服をまとうヘロルト。馬子にも衣装で、丈が少し長いことを除けば、なかなか似合っていた。そんなとき、上等兵だと名乗るフライターク(ミラン・ペシェル)が現われ、ヘロルトを本当の将校だと勘違い。「部隊からはぐれてしまいました。同行させてください」と申し出る。今さら自分は脱走兵だとは言い出せないヘロルトは空軍大尉だと偽称し、架空の任務をでっち上げる。

ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)は自分が脱走兵だとバレないよう、過激な命令を次々と下していく。

 ヘロルトの将校ぶりがあまりに堂々としていたため、行く先々の人たちは簡単に騙されてしまう。ドイツ軍は規律を失い、すっかり弱体化していた。田舎町で略奪行為を働いていたならず者の兵士キピンスキー(フレデリック・ラウ)たちも従え、次第に勢力を増していく自称“ヘロルト親衛隊”だった。

 やがてヘロルト親衛隊は、脱走したドイツ兵たちで溢れ返った収容所に到着。ヘロルトは「ヒトラー総裁から特命を受けた」と大嘘をつき、まだ裁判を終えていない脱走兵たちをいっせいに処刑する。一晩で90人もの同胞を血祭りにした。収容所の警備隊長たちは、ヘロルトの見事な決断力を賞讃する。最初は自分の正体がバレないかとビクビクしていたヘロルトだが、わずか数日間で無秩序状態となっていた戦場の大英雄=大量殺戮者へと変貌を遂げるのだった。

 なぜ19歳の若者が将校のふりをしていたことを誰も見破れなかったのか。いや、ヘロルトは偽者だとバレていた。ヘロルトの片腕となるキピンスキーは、ヘロルトの将校服がサイズ違いなことに気づいていた。だが、彼はそのことを黙っていた。ヘロルトを将校に祭り上げておいたほうが、彼の権威のもとで好き放題に振る舞うことができると踏んだからだ。そんな計算高いキピンスキーらに支えられ、ヘロルトはますます暴君化していくことになる。

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