いかなる長編も、始まりはちょっとした興味『A Writer’s Life』
#雑誌 #出版 #昼間たかしの「100人にしかわからない本千冊」
この連載、基本的に過去に読んだことのある本について書いている。読んだことのある本のうち、100人にしかわからない本についてである。ホントに100人にしかわからないかどうかなど、わかりようもないのだけれど、周囲に読んだことがある人もいないから、きっと100人もわかっていないような気もする。というわけで、好きなように書いているが、一人でも興味を持って本を読む人がいれば幸いである。
さて、今回紹介するのは、まだ読んでいる途中の本。ゲイ・タリーズの『A Writer’s Life』である。
なんで読み終わってないかって? この本は難しいのだ。なんたって、英語で書いてあるのだから。この本、常盤新平が亡くなる前に、扶桑社から出てた文芸誌「en-taxi」のコラムで言及しているんだけど、いっこうに日本語訳が出ない。きっと、永遠に日本語訳なんて出るはずもないから、原書を取り寄せるしかない。
昨年の秋頃から、どうしようもなく最悪な筆者の英語力で必死に読んでいる。文学的な英文って、なんでこんなに関係代名詞や何やらで長いのか。おまけに辞書に載っていない単語もあるので、読めているのか読めていないのか。それでも、なんとかエッセンスを吸収しようと読んでいる。
本書で綴られるのは、これまでのタリーズの物書きとしての生活。タイトルは翻訳すると「作家の人生」か。いや、これまでのタリーズの作品を読むと「Writer」の部分が単純に「作家」とも言い難い。
ともあれ、語られるのは人生でもあり、何げない日常の生活でもある。なぜかって、話があちこちに飛ぶのである。
最初、てっきり一代記かと思って読み始めた。冒頭で、ウチのオヤジはイタリア移民の仕立て屋で~という話から始まったからである。そこから、いきなり自分が取材したスポーツ選手へと話が飛ぶ。
かと思えば、ニューヨーク・ヤンキースの試合をテレビで見ていた話が始まる。そのまま、野球の話が進むのかと思えば、チャンネルを変えて1999年のサッカー女子ワールドカップの話へ。それも、準優勝した中国チームの選手の話へと。
ともかく固有名詞にも戸惑う。サッカーの話をしていたのに「bikini for Sports Illustrated」とか書いてあったので、なんだかわからなくなって、Googleに聞く。『スポーツ・イラストレイテッド』というスポーツ雑誌があって、毎年、水着特集号があるのだと知る。とにかく、さらっと有名人の名前が出てきたりするのだが、その人を知らないので、ひとまず調べる……。そんなことをしていれば、読んでいてもなかなか先に進まない。
いや、そうやって亀の歩みで読み進めながらも気づくのは、ちょっとしたきっかけで取材に入るというタリーズの手法。もう「なんとな~く、興味を持ったので会いに行ってみました」というリラックススタイル。
そうやって、会ってみて作品になるものも、ならないものもある。でも、会って話を聞いていれば、いつかは作品になるかもしれない。
やっぱり、人に会って書くということをやめてはいけないと考える2019年の始まりなのである。
(文=昼間たかし)
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