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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 博多の名産品を生んだ夫婦の実話
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.515

博多っ子のソウルフードを生み出した夫婦の実話! 特許申請はしないこだわり『めんたいぴりり』

 沖縄戦からの帰還兵だった俊之は、戦後の自分の命は拾い物だと考えていた。お金儲けすることよりも、大陸から引き揚げてきた妻と子どもたちも受け入れてくれた福岡という街に役立つことができれば、それが喜びだった。従業員たちを食べさせることでカツカツなのに、台風で家を失った元博多人形師の丸尾(でんでん)たちを家に泊め、朝から酒を呑んでドンチャン騒ぎする。なじみのホステスのキャサリン(中澤裕子)のいるキャバレーでも気前よく散財する。家計をやり繰りする千代子はいつも頭を抱えていた。

「俺のめんたいこを食べた人には、みんな幸せになってほしか」と俊之が願いを込めて作っためんたいこは、キャバレーの客や西鉄ライオンズの選手たちにも知られ、やがて店は大繁盛することに。だが当然ながら、めんたいこを食べた人みんなが幸せな人生を歩めるわけではない。長男・健一(山時聡真)の小学校の同級生・英子(豊嶋花)は両親がおらず、アルコール依存症の叔父に引き取られてビンボー暮らしを強いられている。遠足に参加するための新しい靴もリュックもない。「幸せになる魔法のめんたいこを食べたのに、どうして私は幸せになれないの」と英子は泣く。俊之は自分ひとりの力では、不幸を生み出す社会をどうにもすることができないことを痛感する。

山笠、西鉄ライオンズ、からしめんたい……と俊夫はいろんなものに対し“のぼせもん”となっていく。お調子者だが、憎めない性格だった。

 現実の「ふくや」もかなりユニークな会社だ。「ふくや」の社員はPTAや町内会の役員に選ばれると特別手当てが支給され、授業参観や運動会などの地元のイベントに積極的に参加することが奨励されている。企業として利潤を生み出すだけでなく、従業員たちが暮らしている町そのものを明るく活性化させることを社風としている。創業者の精神を今も受け継いで、からしめんたいこの製造・販売に励んでいる。トヨタ自動車のような大企業ではないものの、博多っ子気質を感じさせる「ふくや」は福岡の人たちから愛されるブランドとなっている。

 劇中の千代子は夫のことを「この、のぼせもんが!」と、たびたび罵倒する。“のぼせもん”とは、目の前のことに熱中しすぎてしまう直情型人間のことを揶揄した福岡のローカルスラング。福岡には前後の見境なく、突っ走ってしまう“のぼせもん”気質の人間が多く、家族や周囲の人間はその尻ぬぐいで苦労するはめになる。ちなみに「ふくや」の包装紙に印刷されている音符のフォルテのような形をした「F」の文字は、創業者・川原俊夫の妻・千鶴子と初代番頭・焼山徳重が50年前に考案したデザインをベースにしたものだ。よき理解者たちに支えられ、俊之はその生涯を“のぼせもん”として過ごすことができた。「みんなを幸せにしたい」と願っていた男は、実はいちばんの幸せものだった。
(文=長野辰次)

映画『めんたいぴりり』
原作/川原健 脚本/東憲司 監督/江口カン
出演/博多華丸、富田靖子、斉藤優(パラシュート部隊)、瀬口寛之、福場俊策、井上佳子、山時聡真、増永成遥、豊嶋花、酒匂美代子、ゴリけん、博多大吉、中澤裕子、髙田延彦、吉本実憂、柄本時生、田中健、でんでん
配給/よしもとクリエイティブ・エージェンシー 1月18日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
C)2019めんたいぴりり製作委員会
http://piriri_movie.official-movie.com/

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最終更新:2019/01/19 21:00
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